距離感

洋前中央繁華街のとある映画館の4番スクリーン、美月と昇太郎は口コミで大人気の映画を見ていた。


上映前も上映後も特に2人共、お互いに喋る事はなく、かなり気まずい雰囲気で映画を見ていたのだ。


映画を見ていたとは言うが昇太郎は冷や汗を出しながら、美月は見てるのか見てないの分からない、どこか上の空のようなボーッとした表情で見ていた。


(はぁ…まぁ当然よね。

お互い、全く知らない土地で情報も何もないのだから、こんな空回りなんて予想出来た事じゃない。

さっきまで仕事脳だったのにそれを急に遊びに切り替えるのは誰でも戸惑っちゃうわ。

そもそも、この映画でさえも私達の嗜好に合うかどうかも分からないのに…。

あっ…駄目駄目、折角昇太郎が必死になって今楽しめそうな最適解を選んでくれたのにそれを私が根こそぎ否定するのは間違ってる。

昇太郎だって今楽しそうに…)


そう思いながら隣にいる昇太郎の顔を覗いたが、その顔は冷や汗に加え顔を真っ赤に染めたものだった。


それを不審に思った美月は彼が視線を向けるスクリーンに視線を移すとベッドの上にいる男女がお互いにキスをしようとするシーンがあった。


「あたし…あなたの事が好きなの!

だから…来て!」


ラブロマンス特有の互いの愛が最高潮に達した時のディープキスが鮮明に映し出された。


それを見た美月も徐々に顔が赤らんでいき頭の中が真っ白になっていた。


昇太郎はディープキスのシーンに突入すると少し顔を俯かせ視界に入らないようにした。


美月は周りの客の迷惑にならないように小声で昇太郎に尋ねた。


「こういうジャンルの映画って…最後、こんな事するの!?

リアルの恋人同士もこういう事するの!?」


「たっ…確かに映画も恋人も最終的にこういう事します…!

で…ですが、俺達はまだそこまでの距離感ではないので…!」


昇太郎の回答を聞いた美月は目を見開いて驚いた。


(「そこまでの距離感ではない」って事は---)


ベッド上で美月を見つめる昇太郎。


そこに恍惚な表情でベッドに乗り、昇太郎に迫る美月が来た。


「昇太郎…私達、もうお互いに名前で呼び合えるし、仕事だってほとんどミスしないくらい順調にこなしてる。

それに何より、お互いの距離だってかなり縮まってきたと思うわ。

ここらで少しやってみない?」


身につける物全てを徐に脱ぎ捨て、美月はそのまま昇太郎に近付いていく---


(そこに達したらこういう風な事も平気でするの!?)


その後のシーンを2人は見ていたが2人の脳の処理能力の限界を超えていた為、昇太郎は思わず目を瞑り、美月は顔を両手で隠しながらも指と指の間からチラチラと覗いていた。


一頻り濡れ場を見た後、最後の方はゆっくりとエンディングに突入していった。


(これが…恋人…。)


そう心中で呟きながら隣にいる未だに興奮冷めやらぬ様子の昇太郎を見つめた。


その後は穏やかな男女の生活模様と後日談のような展開が流れ映画は幕を閉じた---

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