映画
洋前中央部繁華街の歩道、美月と昇太郎は相変わらず緊張しながら歩きっぱなしでまだ一軒も飲食店やレジャー施設などを回れていない状況だった。
(さっきからずっと歩きっぱなしで何もしてないじゃねえか!
当初はあんなにはしゃいでたのにいざ街中に入ってみればずっと歩き詰めってどういう事だよ!
俺、馬鹿すぎねえか!?
でも、手を繋ぎながら歩いている以上、それ以外の事に目を向けられなくなるってのは自然なんだよなぁ。
って言っても流石にそろそろ何かしら回らないと不味くねえか!?)
昇太郎は周りにある建物を隅々まで見てみる。
だが、2人が現在歩いている場所の周りは惜しくも飲食店しか立ち並んでいなかったのだ。
(チッ…!
こんな時に限って飲食店しかないって俺達に対する虐めとしか考えられねえ。
本当にレジャーな施設はないのかよ。
ここいらにはないとしてもここから少し先とかにないのか?)
昇太郎は歩きながら前にある建物群に目を凝らす。
消去法で見つけていくうちにようやくレジャー施設らしい建物を一軒だけ見つけた。
(まぁ見つけたよ?
見つけたはいいけど、それが映画館なんてなぁ。
よりによって映画館なんて1、2時間の映像をずっと見せ続けられるものなんて退屈でしかねえよ。
それに見たいものなんてな………い事もないか。
そういや、前々から見たいものあったんだよなぁ。
凄い口コミで人気だったヤツ。
見たいんだけど、それを美月さんまで好きだとは限らないからなぁ。
かくいう俺も口コミで知って興味が湧いたってだけでよく知らないんだよなぁ。
でも…)
昇太郎は映画館に向いていた視線を歩いている方向へと向ける。
(この先に楽しめそうなレジャー施設があるとは限らないし、ここにいる俺達は洋前の土地勘なんて全くないからどこに美味しい飲食店があって、どこに楽しいレジャー施設があるかなんてさっぱりだからな。
映画館が全く楽しくないかって聞かれたらそうでもないし、その口コミで人気だったヤツの内容が面白ければ1、2時間なんてあっという間に過ぎちまう。
それにその映画が微妙だったら別の映画を見ればいいだけの話だ。
いずれにせよ、楽しめそうなレジャー施設が目の前にあってそれを見逃すのは愚の骨頂よ。
だったら善は急げだな。)
昇太郎は隣で一緒に歩く美月に声をかけた。
「美月さん、ここで映画見に行きません?」
「えっ…?
あっ、そうね。
何か、面白いの…あったかしら?」
「俺知ってます、口コミで凄い評価高いヤツ!
面白いと思いますので見なきゃ損です!
とりあえず、中に入りましょう!」
「あ…うん、分かったわ…。」
昇太郎は美月の手を引いて、美月はそれに付いていく形で映画館に入っていった---
洋前中央繁華街のとある映画館、美月と昇太郎は2人で電子掲示板に映っていた、話題に上がっている例の映画の予告映像を見ていた。
だが、2人が思い描いていたギャグやコメディテイストの映画ではなく、2人の度胸を試されるような映画だった。
「昇太郎…あの、目をつけていた映画って、まさかあれの事?」
昇太郎は映画館に入るなり、スタッフに口コミで聞いた情報を分かりやすく伝え、それを受けたスタッフがその予告映像が映っている電子掲示板に案内して、それを見ていたが、思っていたものと内容が全く違う事に昇太郎は内心焦っていた。
「そ…そうみたいですね。
でも、何か想像と違うというか…。」
それもそのはず予告映像を見て、内容を察するに今の2人が見ていて正気が保てそうなはずがないコテコテのラブロマンス系の映画だったのだ。
「ちょ、ちょっとすみません…。
スタッフさん、別の映画はないですかね?」
「お客様、申し訳ございません。
まもなく上映予定の映画はお客様が仰っていた映画以外はございません。」
(たっ退路を塞がれた!
出るか?
映画館を出て、別の所を回るか?
いや、それはやめた方がいいな。
さっきも考えていたが、この先を歩いて楽しいレジャー施設があるとは限らないし、何より折角入った映画館をすぐ出るなんて目の前にスタッフがいるのに出来る訳がねえ。
仕方ない、ここは腹を決めて、このピンク色の映画を見よう!)
昇太郎は覚悟を決めた瞳を宿しながら、スタッフに対峙した。
「分かりました。
この映画、見させて下さい!」
「ありがとうございます!」
昇太郎はそのままの勢いで美月にも声をかける。
「美月さん、思ってたのとは違いますが、折角映画館に入りましたし、この映画を見ましょう!」
「えっ…あ、そう?
わ、分かったわ…。
昇太郎がそう言うなら、私も見てみようかしら。」
昇太郎は半ば破れかぶれの状態で、美月はあまり乗り気ではない様子で上映するスクリーンへ向かった---
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