パーソナルスペース
洋前中央に位置するとある繁華街、美月と昇太郎はここで遊び歩く為の散策をしていた。
田舎の中のど田舎である青原とそれ程までに色んな施設の装飾や煌びやかさは変わらないが、青原よりも人で溢れているのは事実だった。
どの施設も人で溢れ返る所を見ると、自然と色々な所に目移りし、同時に惹かれるものがあった。
全ての場所を回りたくなる程の人の多さと活気に少なくとも昇太郎は興奮を隠しきれずにいた。
対して美月は雑木林を抜けるまでは割と平静を保っていたが、人の目が多い繁華街に入ってからは、ずっと顔を俯かせ羞恥に耐え忍んでいた。
「いやぁ、行きの時はしっかりと街並みを見れなかったですけど、オフタイムでじっくりと見るとやっぱり青原とは比べ物にならないくらい活気がありますね。
どこもかしこも繁盛してそうで全部回りたいくらいですよ。
この街をこれから遊び歩くってんだから、凄えワクワクします。
美月さんもそう思いませんか?」
「………。」
「美月さん、どうかしましたか?」
「…あっ、ごめんなさい昇太郎。
改めて、こんな人気が多い場所で男の人と2人きりってのは中々なくて…。」
それを聞いた昇太郎は今までの興奮した態度を改めて冷静になり、横並びで人3人分程の距離を空けて歩き出した。
「えっ?
ちょっと…急に何?」
「俺も改めて考えてみたら竜胆先輩の言う事が理に適っています。
2人きりでもないのに手を繋げるくらいの距離で歩くのは確かにかなり恥ずかしいし、嫌ですよね。
場所を回る時もなるべく離れて回りましょう。」
(何よそれ!
離れるにしても離れすぎじゃない!?
呼び名だって名前呼びから一転して名字呼びになって急に他人行儀みたいな感じだし…!
そこまで大々的にパーソナルスペースを広くされると逆にムカつく…!
あの狭いロッカーで私の事好きって言ったくせに…!
こうなったら…!)
美月は徐に足を踏み出し、無言で歩きながら昇太郎に近付いていった。
「えっ…!?
ちょ、ちょ…先輩、何でこっちにちかづ…!」
「………。」
美月は歩く勢いそのままに昇太郎の腕に両腕で抱きついた。
その際に当たった胸の感触が腕にダイレクトに伝わり、その柔らかさに昇太郎は一気に顔が赤くなった。
当の美月も昇太郎の顔を直視できない程に顔を赤らめていた。
「せ、先輩、何を…!?」
「うるさいわね!
私が好きでやってる事だから一々口出ししないで!
後、2人きりの時は名字で呼ばないでって言ったわよね!?
もう忘れたの!?」
「す、すみません…。
気を付けます。」
(何やってるの、私ぃぃぃいいい!!!
勢いに任せてこんな事やるなんて、今までこんな事なかったわよ!
やる前に周りの目とか気にしなかったの!?
後々降りかかる問題とかも気にしなかったの!?
盲目的すぎて自分が嫌になるぅぅぅううう!!!
もう、私の馬鹿…。
はぁ、あれこれ悩んでてもやってしまった後だから仕方ないか…。
こうなったらもう、なるようになるしかないわ。)
(美月さんの胸が俺の腕にのしかかるように触れている!
こないだのお風呂の時でも分かってたけど、この押し付ければ押し付ける程、沈んでいく柔らかさは発狂しそうなレベルだ!
こんなの、腕に意識があるとしたら呼吸困難で窒息死しかねないくらいだ!
これで半日くらい、ほぼずっとだったら、俺…耐えられる自信がねえ!
頭がイカれてしまいそうだぜ!)
数秒程、美月は昇太郎の腕に抱き付きながら2人歩いていたが、やがて美月は抱き付いた両腕を解き代わりに右手で昇太郎の左手を握った。
「やっぱり…今のでずっと…っていうのは私も無理があるから手を繋いで歩きましょう?」
「あ、あぁ…そうですね。
その方が無難でお互いに恥ずかしくなくて良いと思います。」
(ふぅ、良かったぁ…。
あのままずっと腕に抱き付かれたままだったら俺どうにかなってたわ。
美月さんの理性ある判断に感謝感謝ですわ。)
美月は自身の折り合いをつけた行動に、昇太郎は美月の賢明な判断に胸を撫で下ろし、繁華街の先へ進んでいった---
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