バレない対策
「まぁ、そんなケチケチした話は置いといて、何を食べる?
何でも好きなもの頼んでもいいのよ?
グランドメニューの寿司を総ナメしたり、ガッツリとしたランチメニューでお腹一杯でもいいわよ。
その代わり、食べたら私の話に付き合うと約束して。」
自分の財力をちらつかせるような得意げな顔で昇太郎が好きそうなものを勧めてくる。
対して昇太郎は苦笑を浮かべ、あまり乗り気ではない様子で返答してきた。
「お計らい、感謝です。
ですが、やはり自分の上司のお金で好き放題食べるというのはどうも受け入れ難いので今回はランチメニューを一品だけ食べさせていただきます。」
「もう、今日は随分と反抗的なのね。
今日から上司に楯突く気なの?」
「大丈夫です、話はちゃんと聞きますので。」
「そういう問題じゃないのだけど…はぁ、まぁいいわ。
それじゃあ、さっさと注文を済ませてしまいましょう。」
美月は慣れた感じで店員を呼び、早々と注文を済ませ、料理が来る間の昇太郎は貧乏揺すりはしなかったが、やたらと周囲をキョロキョロしながら待っていた---
待つこと数十分、注文していた料理がテーブルに並び、お互いが自身の料理を確認した後、次は相手の料理を確認した。
「美月さんもランチメニューにしたんですね。」
「『したんですね』って…あなた、向かい側にいて私が店員さんに注文を伝えるの聞いてたじゃない。」
「すみません。
まだ、この店の雰囲気に慣れなくて全く聞いていませんでした。」
「はぁ、困った新人隊員さんね。」
「重ね重ねすみません。」
昇太郎の周りが見えない程の高級さに打ち震えた態度に美月は溜め息を吐き、昇太郎はそれに対して何度も謝った。
「まぁ、いいわ。
それで話というのはね、他ならない交際の事についてよ。」
今回のメインイベントに話がシフトした事に気付き、昇太郎は打ち震えていた態度を瞬時に振り払い、真摯な顔付きで美月の話に耳を傾けた。
「私達の関係を支部内の隊員達にバレないようにする為にはどうしたらいいかの話し合いよ。」
「なるほど。
それだったら、ここで話す必要がありますね。」
「こんな事で今日散々痛い目に遭わせてしまった昇太郎に頼みたくなかったけど、1人で考えてたらどうしても埒が明かなかったから不本意ではあるけど、昇太郎も交えて話し合いの場を設ける事にしたの。」
「不本意なんて…全然大丈夫ですよ。
俺に出来る事だったらどんどん頼って下さい。」
「ありがとう、昇太郎。
それで、何か妙案とかない?」
そう美月に爛々とした目で尋ねられ、目を閉じて深く熟考…という時間を要するまでもなく、答えはすぐに昇太郎の口から出てきた。
「要は美月さんは相手の『顔』を見るだけで質問にうまく答えられなかったり、動悸がしたりするんですよね。
でしたら、相手の『顔』じゃなくて『鼻』を見るんですよ。
昔、コミュニケーション技法の教科書でそういうのを見た事あります。
実際に使ってみた事はありませんでしたけど。」
「………。」
「えっと…どうしたんですか、俺の顔をじっと見て。
何か付いてます?」
饒舌に対策法を語る昇太郎に美月は目を丸くしながらそれを聞いていた。
だが、流石にその異様な視線に気付き、昇太郎が尋ねてみたところ、美月は途端に我に返った。
「いや、そういう訳ではないけど、昇太郎って凄いなって思ってしまってね。」
「うん?
何が凄いんですか?
俺、何か特別な事しましたか?」
「そうね、私にとっては特別な事かも。
そんなにすぐ即答で対策をパッと言えるなんて…私1人じゃ全然出来なかったわ。」
その言葉を聞き、美月の喋る言葉の意味に気付いた昇太郎はすぐにフォローを入れた。
「なんだ、そんな事ですか。
別に特別な事でも何でもないですよ。
人には得手不得手があるので、たまたま俺が昔教科書で読んでた事を思い出しただけじゃないですか。
それに自分でやりもしないのにそれを対策だと美月さんに話す俺は無責任だと思いますよ。」
「いや、だとしても納得のいく対策だったわ。
本当に何から何までありがとう。」
「美月さんが喜んだのなら俺も一緒に考えた甲斐があります。」
「そしたら、顔じゃなくて鼻を見ればいいのよね。」
美月は早速有限を実行に移す為、予行演習としてこの場で昇太郎の鼻を見つめた。
だが、そう間もない内に両頬が仄かに赤みを見せ、美月は顔を逸らした。
「駄目…無理…。
ナイスなアイディアだと思ったんだけど、『鼻しか見ない』って意識しすぎて顔全体を見ちゃうぅ…。」
「………。」
1人、恥ずかしさの沼に沼に嵌まる中、それを静観していた昇太郎は徐に顔を俯かせ、身体が震え出した。
「はぁ…これは数日の慣れが必要ね。
宿題決定だわ。
って昇太郎、あんた何身体震わせて笑ってるのよ!
もう、私1人だけ恥ずかしい思いなんてフェアじゃないわ!
その顔を早く上げなさい!」
そうして、無理矢理に上げさせた昇太郎の顔は美月が思っていたものとは全くの正反対のものだった。
「違うんです…。
美月さんの恥ずかしがる姿が…凄く…可愛いなって思ってしまって…。」
「何よ、それ…。
そんな事言われたら…こっちまで余計恥ずかしく…。」
2人はお互いに顔を合わせられなくなり、数秒の間は顔を俯かせたままだった。
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