高級回転寿司

青原にあるとある有名な高級回転寿司店、美月の案内で連れてこられた場所を一目見て昇太郎は呆気に取られた表情で店内を見回した。


「あの…美月さん。」


「うん、何?」


「いや、その…美月さんって外食する時、いつもこういう所に来るんですか…?」


「そうだけど、何か可笑しい?」


「いや、可笑しいといいますか…そもそも、ここって高級回転寿司店ですよ…?」


「そんなの知ってるわよ。

改めて昇太郎から言われる事じゃないわ。」


今の今まで外食する時に「高級」というイメージがある店には主に金銭的に絶対に入店しない意思がある昇太郎は涼しい顔をしながら入店する美月に少なからずある種の恐怖を覚えていた。


座るテーブル席を美月が目で見て決めると昇太郎に座るように催促した。


「さぁ、座って。」


「あっ…はい。」


だが、明らかに目で見てわかる至る所から「高級」という雰囲気が感じ取られる内装。


それに圧迫されそうになり落ち着かない昇太郎は座って数秒も経たない内に普段ならまずしない貧乏揺すりを無意識にし始める。


行儀が悪いと分かっている貧乏揺すりを無意識の内にする昇太郎にはそれ程までに心に余裕がないようだ。


貧乏揺すりをして間もない時、テーブルを挟み、向かいの席でメニューを見ている美月にも距離が近いのでそれによる振動が伝わった。


振動を受けた美月は戸惑いながら周囲の様子を確認する。


「何、地震?」


だが、周りを見回し、他の客の反応を見ても地震による騒然とした様子は確認されない。


そうなると、気のせいと思い、不意に昇太郎を足元を見ると一定のリズムで踵を上下運動してる様を視認出来た。


その様子を見て、あからさまに膨れっ面をして昇太郎に注意をする。


「ちょっと昇太郎。」


「………。」


しかし返事は返ってこない。


「昇太郎。」


「………。」


しかし返事は返ってこない。


「………。」


大声を出して気を引こうにも自分の家でもないので躊躇われた美月は無言で無表情になりつつ昇太郎の頬を引っ張った。


「…いててててててててて!」


「気付きましたか?」


「き…気付きますよ、こんな事されたら。

というか美月さん、何で頬を引っ張ったんですか?

それに何か急に敬語で喋ってきますし…。」


「あなたが呼びかけても気付かないからです。」


「そ、そんな事…」


「ありました。」


即答で否定する美月に昇太郎はたじろいだ。


「………。」


何かを言おうにも言葉に詰まる昇太郎。


それを見兼ねた美月は溜め息を吐きながらも改めて昇太郎に優しく注意をする。


「はぁ、何があったかは知らないけど貧乏揺すりはするものではないわよ。」


「貧乏揺すり?

えっ、自分、貧乏揺すりしてたんですか?」


「自覚がないの?

まぁいいわ。

兎に角、次からは気を付けてね。

そんな事よりも注文決めて。」


「あっ…はい。」


貧乏揺すりの話題は軽く触れた程度で流し、注文の話題にシフトする。


手渡されたお品書きを受け取り、そこに書かれたメニューを流し読みでザッと目を通す。


流し読みでも分かるような普通の回転寿司にはない一皿300円越えの値段が付くメニューが大多数の寿司達。


軍艦だと100円程度の馴染みのある値段だが、それ以外の普通の握りになると300円、400円、500円…下手をすれば600円程度の握りも見受けられた。


それらを見て昇太郎は心なしか、頭が痛くなるような感覚に襲われた。


そんな昇太郎の状態を知ってか知らずか美月は何の気なしにメニューを指差しながら説明を始める。


「この寿司の写真が所狭しにあるのがグランドメニュー、これがランチメニュー、そしてこれが寿司盛り合わせメニュー。

私はいつもランチメニュー食べてるわ。

たまに無礼講で沢山食べたい時はグランドメニューを大量に食べるけど。」


「いや、あの…こんな高級回転寿司店に連れていただいて大変恐縮なんですが、俺今あまりお金がなくてですね…」


「いいわよ、そんなの。

今日は話の場を設ける為に無理にここに来てもらってるんだから代金は私が全部持つわ。」


「いや…それもそれで…」


「うん、何よ?」


古の習慣的に男女が食事をする時に食事代を払うのは男性というものを考えると美月に全て払ってもらうのは男としての矜持が損なわれるような気がして昇太郎は暫く考え込む。


やがて、昇太郎は追い詰められた獣のような目をしながらゆっくりと口を開いた。


「やっぱり…俺が…」


「だから払わなくていいの!

前も言ったけど、上司が『良いよ』って言ったら素直に従うのが部下なの!

こう言う時は高級でも低級でも何でも素直に頂いちゃいなさいな。

そうして、食べ終わったら気落ちした顔も元気になるんじゃない?」


「えっ?

さっきの顔、気付いてたんですか?」


「当然よ!

私を誰だと思ってるの!?

斬り込み隊隊長の石金の美月よ!」


胸に手を当て、その胸を大きく張り、鼻高々に自分の役職を昇太郎に言い放つ美月。


「ははは…。」


昇太郎は苦笑しつつも気落ちしてた事を看破されてスッキリとした表情をしていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る