真意

「うん…と、あの、その…」


鶴田の鬼気迫る気迫と圧力に気圧され、答えを言いにくそうにしていると鶴田が身を乗り出した。


「獅子谷、本当に早く言え!

じゃないと仕事が始められないんだ!

こんな事に時間を食う訳にはいかないんだ!

さっさとしろ!」


「は、はいぃ!

えと…結果的には確かに押し倒しました。

追いかける時に身体のバランスを崩して前のめりに転んでしまって竜胆先輩に全体重かけて…気が付いたら押し倒していました。」


「まぁ、隙を突いて押し倒しそう…なんて言ったが、そもそもここに就職して数日で何の縁もゆかりもない赤の他人同然でありながら尚且つ、この青原支部の斬り込み隊隊長の石金と称えられる竜胆美月を故意に押し倒すなんてある訳がないか。

押し倒したとして、不幸に不幸が重なって起こる、今話したような不可抗力的な感じだろうな。」


(だったら、何でそんな執拗に問い詰めたのよ?

分かってたんなら言わせなくていいじゃない。

めちゃくちゃ性格悪いわね。

もしかして、鶴田さんってかなりの意地悪?)


「少しおちゃらけて言ったが、竜胆隊長にあまり負担をかけるんじゃねぇぞ。」


「………!」


してやったり感満載で満足げな鶴田はゆっくりと前のめりにした上体を戻し、椅子に深く座る。


そして、少し目を細めながら問いかける。


「んで、わざとじゃなくても竜胆隊長を押し倒したお前は少しは彼女に好意を抱いたのか?」


「なっ!」


(あっ!)


これには流石にポーカーフェイスを装おうとする昇太郎も少し声を上げて動揺する。


(鶴田さん、ナイス!

やっと聞いてくれたわね!

今日何よりも私が聞きたかった事だわ!

本当は自分で聞きたかったけど、私が目の前だと彼も答えづらそうだし、この場を借りて真意を確かめさせてもらうわ!

さぁ獅子谷さん、話してちょうだい!)


興奮しすぎるとすぐにバレるので出来るだけ冷静さを忘れずに返答した。


「そんな訳ないじゃないですか…。

俺みたいなポッと出の新人が竜胆先輩と恋人になるなんて恐れ多いですよ。

なので、先ず以って有り得ません。」


(えっ…?

何…それ?)


それを黙って聞いていた鶴田は徐に椅子から立ち上がる。


「これ以上は深掘りしないが、これだけは忘れるな。

竜胆隊長はこの青原支部の要だ。

あの人がいない青原支部など、とてもじゃないが考えられん。

今ではあの人はあってなくてはならない存在だ。

あの人のおかげでここの隊員達は今じゃあ死人もまるっきり出ない、平和な支部だ。

最高の隊長さんだよ。

だからこそ、変に関わりすぎてあの人のコンディションを根こそぎ削ぐような事はしないでくれよ。

つまりは…さっきも言ったが、あの人にあまり負担をかけるな。

話はそれだけだ。」


そう言いながら鶴田は物置部屋の出入り口に向かって歩く。


ドアノブに手をかけてのところで昇太郎の方に顔を向けた。


「あぁ、後その机と椅子、元の場所へ戻せよ。

それから仕事しろよ。

じゃあな。」


そう言い残すと鶴田はドアを開け、事務室の方へ歩き出した。


鶴田が事務室の方へ行く様を隠れながら見送った美月は入れ違いに物置部屋の方へ入る。


そして、椅子と机の片付けをしている昇太郎の所に何気なく混じり、片付けをし出した---


物の数分で椅子と机の片付けを終えた2人。


「よし終わり。

さてと、仕事に戻りますか。」


「そうね。

じゃないと、また鶴田さんに怒られてしまうわ。」


「ですね。

あの剣幕と気迫と圧力を受けた日にはあまり怒らせたくな…

って、えぇ、先輩!?

どうしてこ…」


全て言い出そうとするのを片手で口を押さえて塞ぐ美月。


「しーっ!

静かに!

本当にまた怒られるわよ!?

それだけじゃなくて、そんな声出したら他の隊員達も訝しむわ!」


大声に対する指摘と状況を把握した昇太郎は次第に落ち着きを取り戻す。


完全に落ち着いたと見るや美月は口を塞いだ手をゆっくりと離す。


「そ…そうでした。

っというか、そんな事よりも何故先輩がここにいるんです?」


「それは、その…真意を聞きたかったというか…」


「えっ、真意?」


「………。」


身体をもじもじさせながら言いにくそうにしてるのに、それを阿保面下げて疑問符を上げられたら当然苛々するので斬り込み隊長としてズバッと斬り込む。


「そんな事より、さっき言ってた事は何?」


「えっ?

さっき言ってた事?

えと…すみません、何の事でしょう?」


「………。」


苦笑いを浮かべながら聞き返す昇太郎。


全てを言わなきゃ分からないような、この相手の意を汲まない苦笑いに美月は若干の怒りを覚え、目つきを鋭くしながら口を開いた。


「私と恋人じゃないってどういう事なの?

確かに告白されたばかりで付き合ってないけど、それでもこれから交際するのは今日からなんだし、それをわざわざ捻じ曲げる必要はないんじゃないの?」


昇太郎は何故だか浮かない顔をして、数秒答えあぐねた後、ゆっくりと言葉を発した。


「それは俺が昨日一方的に先輩に『交際して下さい』と言ったからですよ。」


「えっ?」

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