答え

「止まれ、この野郎!」


「グェエエエ!」


昇太郎と美月が揉めている間に鶴田は騒ぎを起こしている妖魔を倒した。


「よし、倒したか。

はは、やっりぃ!

隊長、取り逃した時のカバーは任せて下さい!

………。

あれ?

隊長ー、隊長ー!?」


既にその場からいなくなった美月に焦りが若干ある叫びで何度呼びかけようとも無駄な肺活量の消費であった。


だが、その場にいた鶴田のおかげで妖魔を倒す事が出来、街の住民に被害を出さずに済んだので結果的に重畳ではある。


一方、その頃、昇太郎と美月は夜の街を全速力で追いかけっこしていた。


全力で逃げる女、全力で追いかける男、その様子は傍から見たら嫌そうに逃げる女を無理矢理連れ戻そうと躍起になる男の構図にしか見えず、犯罪臭をプンプンと臭わせる。


だが、そんな目線などには構っていられない程、2人それぞれに別々の想いがあった。


「待って下さい、先輩!

どうして…どうしてそんな…必死になって逃げるんです!?」


「………。」


「先輩、黙ってないで何とか喋って…あっ!」


「!!!」


急いで走りすぎた昇太郎は地面に躓き、そのまま前を走る美月にのしかかるように転んだ。


傍からは押し倒したようにしか見えないのだが。


「………。」


「………。」


「うわっと!

すみません、今離れますので。」


「………。」


「えっ?

なっ!」


目の前に美月がいて、押し倒した事を察知した昇太郎は美月を刺激しないようにゆっくりと離れるが、美月は瞬時に昇太郎の襟を掴み自分の元に引き寄せる。


「先輩、急に何を…。」


「なぜ急にあなたから逃げたのか、なぜ急に何を聞かれても黙り込むのか…ですって?

そんなの…決まってるじゃない。

何度も何度も…何回も何回も…同じ事を言わせないで…。

獅子谷昇太郎、あなたが私のそばにいるからよ!」


「………。」


昇太郎が美月を押し倒した事で多くの衆目が歩きながらに彼らを見ていたが、美月の怒号により更に多くの目線を集めた。


美月の怒号には特段驚きもせず、昇太郎はその後に続く美月の言葉を黙って聞き続けた。


「もう慣れたと思ったけど、それでも…あなたが急に目の前に出てくると小さかった動悸が激しい波のようにどくどくって大きくなる…!

そうなったらもう…その動悸を何とか抑えようと必死になって、他の事が何も手が付かなくなる…!

毎回毎回、こんなんじゃ、斬り込み隊長としての責務も全う出来ない!

もう…我慢の限界よ!」


「………。」


終始、語気の強め、自分の言い分を述べた美月。


だが、それでも尚、昇太郎が黙っている事が気に食わなかったのか、厳しい顔をし昇太郎を睨め付け、掴んだ襟に更に力を込めて先程よりもより近くに自分の元に引き寄せた。


「あなた、以前私のこの動悸の原因が分かったような言い方をしていたわね…?

ねぇ、それはいつ教えてくれるの?

あの時は『まだその時じゃない』ってあなたははぐらかした。

少し納得いかなかったけど、私は『その時』が来るのを信じて待った。

あなたがそれを教えてくれるのをずっと待ってた。

だけど、あなたは未だにそれを教えてくれなかった。

その素振りすらも見受けられない。

その間にも動悸に苛まれ、満足に仕事を出来ない毎日。

…っ…!

もう…耐えられない!」


更に語気が強くなり、昇太郎に問い質す。


「ねぇ、本当にいつ教えてくれるの!?

もう、私不安で不安でしょうがないのよ!

そうよ、今教えるべきだわ!

いや、今すぐ教えないさい!

じゃないと、このままじゃ…このままじゃ…私は『石金の美月』じゃなくて、ただの『美月』になってしまうじゃない!

それでも…まだ黙るの!?

まだ黙り続けるの!?

いい加減に早く…喋りなさい、獅子谷昇太郎!」」


最後の一言は今まで発した言葉よりも腹から声を絞り出したような声だった。


「………。」


「………。」


しばらくの2人の沈黙と衆目の喧騒だけが聞こえる中、昇太郎は遂にその口を開いた。


「まさか、先輩がそんなに思い詰めていたなんて知りもしませんでした。

そんな状態になるまで、今まで『答え』を先延ばしにしておいて申し訳ありませんでした。」


静かに自分の襟を掴んでいた、美月の手を下ろし、少し距離を空けるとキチンとした姿勢で土下座をした。


「男の俺がその『答え』を先輩に教えると自分自身がまるでナルシストみたいで乗り気にならなかった事と女性である先輩に言うのは男として恥ずかしいといった2つの事が俺の中でのストッパーになって言えずじまいだったんです。

だから、先輩にその『答え』が気付いて欲しくて、今までずっと黙ってたんですが、そんなに思い詰めていたら気付くものも気付かないですよね。

本当に自分が浅慮でした。

それでは少し恥ずかしいですけど、先輩にその『答え』を言います。」


若干怯えと好奇心が混じったような複雑な気持ちで昇太郎の次の言葉を待つ美月。


昇太郎は本当に恥ずかしいのか、ほんのりと顔が赤く染まり、一回深呼吸をしていた。


そして、昇太郎は意を決して美月の瞳を真っ直ぐに見据えた。


「先輩が動悸に苛まれるのは俺に恋をしているからだと思います。」


「…へ…?」


厳しく、鋭く睨んでいた表情でで答えを待っていた先程の美月とは一変し、素っ頓狂な声を出しながら間の抜けた表情で昇太郎を見つめていた。







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