原因解明

「あなたもわざとあの時、あんな言葉を言った訳じゃないのにいつまでもあなたに当たって…。

普段ならこんな事ないのだけど、今回のケースはなん………。

…ふふ…今回であっても別の件であっても然程変わりないわね。

こんな言い訳がましい事…斬り込み隊長として失格だわ。

本当に…ごめんね。」


「こちらこそ、何かと場の空気を読まない発言が多くて申し訳ないです。

ですが、先輩と初めてお会いした時に言った、あの「可愛いね」という言葉は俺が心の底から思った真の言葉です。」


「えっ…?」


驚いた美月は顔を上げて昇太郎を見つめる。


温かい陽だまりのような気持ちが急転し、再び激しい動悸が美月を襲った。


そんな様子の美月を知ってか知らずか、昇太郎はその真剣味溢れる表情を崩さずに言葉を続けた。


「今まで先輩に会った人達が先輩の事をどのように思ったのかは知りませんが、少なくとも俺は先輩の事、皆を纏める上司で優しさに溢れ、それでいて可愛い女性と思ってます。

なんて、こんな事言って先輩が元気になるかは知りませんが。」


真剣な表情から一変し、今度は普段のヘラヘラした表情に戻る。


「………。」


「すみません、またお気に障ったような事を言って…。」


美月が黙り込んだのを見て不快感を覚えたと推察した昇太郎はすぐに申し訳なさそうに謝罪した。


だが、それに対して美月は言葉の代わりに首を横に2、3回振り否定の意を示した。


そして、まるで紅潮な顔を気取らせまいと少し顔を俯かせた。


「私…そんな事言われたの…初めてで…。

少し…驚いただけ…。」


(不味いわ…。

胸の動悸がどんどん激しくなって…。

もう…本当に何が原因なのよ、これは!

とりあえず、チョコでも食べて落ち着こう!)


「はむはむはむはむ!」


美月は動悸から気を紛らわせる為、チョコに齧り付く。


対して、昇太郎は虚空を見上げたまま歩き、しばらくすると何かを思い付いたかのように

美月に振り向いた。


「そういえば、先輩。

以前先輩が言ってた、例の俺に会ってからの『精神に作用するような特殊な何か』についてなんですけど。」


「それがどうしたのよ?

えっ…ま、まさか…。」


すると、昇太郎は何が恥ずかしかったのか美月を真っ直ぐに見据えず、若干目線を逸らしながら言葉を続けた。


「あれはおそらく…いや、断言して悪い精神作用ではありません。

むしろ、それを患った人が幸せになる、とても心地良い精神作用です。」


「ふふ…やっぱりそうなのね。

最初から薄々勘づいていたけど、獅子谷さん…あなた私に薬物を…」


「それは違います。」


見破ったりと悦な表情を浮かべながら淡々と言葉を述べ「薬物」と言った瞬間に昇太郎は続きを遮った。


「確かに今の言葉を聞いて薬物の類だと思うかもしれませんが、あんな一時的で擬似的な心地良さなんかではありません。

先輩が元から持ってる純粋な心の作用です。

言わば、自然現象です。」


「!!!

という事は原因が分かったのね!?

さぁ言って!

この動悸は一体何なの!?」


それを聞いた美月は目を見開き、興奮した様子で昇太郎に迫った。


「まっ…待って下さい!

今はまだその時じゃないです!

だから、言えません!」


昇太郎も美月の興奮さに驚きながらもしっかりと言葉を返し、曖昧に暈した。


「何を渋ってるのよ!?

まさか、やっぱり悪い事なんじゃ…」


「違います違います!

いずれ必ず話しますから、それではまた明日、会社で会いましょう!」


強引に話を切り上げ、昇太郎は美月をその場に残し、走って帰路に向かった。


「あっありがとう!」


走る昇太郎の背に向かって美月はお礼の言葉を投げかけた。


寂しそうな眼差しでその背をしばらく見つめた後、美月は握り締めたチョコを一口齧り付いた。


「…甘い…。」


昇太郎の優しさに感じ入った美月は彼がいなくなった事によって、思わずそんな一言を呟いた---


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る