変化
(あー…またやっちゃった…。)
昇太郎を尾行する前と似たような路地裏の広間で美月は壁に手を付き、尾行する前よりも盛大に落ち込んでいた。
(何か違う。
本当にいつもの私と違う。
部下がへまをして、叱る事はよくあるんだけど、彼が相手だとどうもいつもの私よりも感情的になっちゃう。
しかも、感情的になりすぎて、自分でも何を言ったか、言ってる時も言った後も分からなくなるし。
現に今もさっき言ってた事を必死に思い出そうとしても何一つハッキリと思い出せない。
これじゃあ、酒飲みの悪酔いと一緒だわ。
何とかしないと…。)
昇太郎と対人する時の対策を悩んでいると、大通りの方から聞き慣れた声質で聞き慣れた言葉が聞こえてきた。
「隊長ー!
どこですかー、隊長ー!?」
(えっ?
支部の同僚が何でここに?
今は私がパトロール担当のはず。
何か大事なことでもあったかしら?」
妙な胸騒ぎを感じ、大通りの方へ走っていく。
「どうしたんですか!?
何かありましたか!?」
「うわっ!
隊長、何でそんなところから…?」
同僚は意外な所から美月が出てきた事に面を食らった。
それはそうだろう。
人の往来が多い大通りから出てくるならまだしも、人気があまりない路地裏から出てきたともなれば疑問に思うのは必然。
「そんな事は別にどうだっていいでしょう!
それより何ですか、私がパトロール担当中に私を呼んで!?
何かあったんですか!?」
だが、今の彼女にとってはそんな事は些細な事に等しく、自分を呼ぶ彼の必死さの訳が気がかりであった。
「いや、別に非常事態が起きた訳ではないですけど、もうパトロール交代時間なのに、隊長いつまで経っても来ないから、皆どうしたんですかねって心配してたんですよ。
いつもは時間に厳格な隊長が時間通りになっても帰ってこないのは皆おどおどするのは当然ですよ。
例外的に時間通りに来ない日もあるにはありましたけど、その時は決まった時間の10分くらい前に必ず連絡入れてたから、皆そんな心配する事はなかったんですよ。
でも、今は時間通りに来る事はないし、かといって連絡も全然ないしで支部の皆はもう慌ててますよ。
だから、聞きたいんですけど、何かあったんですか?」
(嘘…。
もうそんなに時間が過ぎてるの?
彼と付き合ってたせいで時間を全然気にしてなかった?
それとも、彼といた事で時間感覚がいつの間にか麻痺してた?
いずれにしても、これは大失敗だわ。
いつもしてるパトロールが全然出来ていないだなんて…。
全く…本当にもうどうしたらいいんだか。)
「隊長…?」
不安が顔に出ていたか、同僚が弱々しいトーンで美月に声をかけた。
(不味い。
彼に私の不安が伝播されそうになってる。
斬り込み隊長である私が不安になったら駄目だわ。
私がしっかりしないと彼の士気も上がらない。
悩むのは後々。
今はしっかりと毅然とした態度を取らないと。)
一度目を瞑り、数秒後再び目を開けると、普段の凛とした表情に戻った。
「問題ないです。
今日は少し調子が悪いだけです。
明日になれば、いつもの調子に戻ります。
支部の皆には私がちゃんと訳を伝えるから後はお願いします。」
「は、はい!
それではよろしくお願いします!」
先程までの不安そう表情とは一変して快活そうな表情に戻った同僚を見届けた後、美月は彼に背を向け悠々と支部に戻っていった---
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