ツンデレ
店から出ると昇太郎は早弁など何の事やらといった様子で美月に普段通りに話しかけた。
「いやー、1人で食べるカツ丼も良かったですけど、2人で食べるカツ丼もまた違った趣がありましたよ。
今日は一緒に付き合ってくれてありがとうございます、先輩。」
そして、会釈程度の角度で頭を下げる。
(2人…2人…一緒…一緒…つまり…2人きり…。
………。)
再び、美月は特定の言葉だけを頭の中で反芻し、黙り込む。
「先輩?
何か食べる前も食べた後も様子、変わらず変でしたけど、本当にどうしたんです?」
「………。」
「………?」
しばし黙り込んだ後、溜め込んだ怒りをぶつけるように額に青筋を浮かべながら口を開いた。
「獅子谷さん!
あなた、彼が耳たこになるくらいあなたに注意していたのに何でまたこんな所で早弁してるのよ!
ちゃんと妖魔は退治しているようだけど、だからってあなただけ特別待遇で職務中に早弁していいとは労働条件にも口頭でも言ってないわ!
だから、しっかりと自分に与えられた職務を全うしてもらわないと私だけじゃなく青原支部という組織全体が困るのよ!
それがあなたに与えられた、あなたにしか出来ない、あなたがしなければいけない責任なんだから!
だから、別に一緒に職務怠慢したり、一緒に早弁したり、一緒に秘密の共犯したり…別に別に別に一緒にカツ丼を食べた事が嬉しかったなんて何もないんだからね!
これっぽっちも思ってないんだからね!
さっきは飲食店という食べる事を目的としたお店に入ったから仕方なく食べたの!
あなたの職務怠慢を止めさせる為にお店に入って、そのついでに食べただけよ!
お腹が空いて我慢出来ないから食べた訳じゃないわ!
断じてないわ!
そんなねぇ、無理矢理回避出来ないやり口で私を懐柔しようだなんて思わないことね!
斬り込み隊隊長だからって攻めだけが取り柄じゃないわ!
こう見えて私は守りも得意なんですから!
とにかく、あなたの教育係以上に厳しく、そして多めに私が指導するから、これからもずっと怠け放題だなんて、そんな生温い事、口が裂けてでも吐かせませんからね!
覚悟して下さいよ!
それじゃあ、私もう支部に戻るので!
あなたも早く戻りなさい、獅子谷さん!」
顔を真っ赤にさせながら自分の犯した間違いも素直に認めず、いたずらがバレた子供にも似た早口、いや…それ以上の高速な早口で一方的に捲し立て、昇太郎に喋る暇も与えず、言いたい事を全て言い終わるとそのまま彼をそこに置き去りにし、嵐のように支部に帰っていった。
1人その場に取り残された昇太郎は足早に歩いていく美月の背が消えてなくなった後、空を仰ぎながらボソりと呟いた。
「いやはや、あの斬り込み隊長さんにはやはり全てお見通しだったか。
上手くいかないもんだな。
このまま職務怠慢や早弁には触れず、和気藹々とした会話をしながら支部に帰れると思ったんだが、そうは問屋が卸さないってかぁ…?
隊長さんを激怒させた挙句、今までの教育係のあの先輩に成り代わってこれから隊長自らが俺の教育係をするときたもんだ。
こうなっちゃあ、もうおちおち早弁も出来なくなっちまったなぁ。
さて、これから一体…どうしたもんかねぇ…。
まっ、とりあえず、隊長さんに支部に戻れって言われたから戻りますか。
これからの事はその後考えよ。」
先程の美月の件で大きくやる気を削がれた昇太郎はテンポの悪い足取りで支部への帰路を歩き始めた。
職務怠慢の事は先程の美月の叱責でもまだ懲りていないが、それ以上に先程のカツ丼屋での軽率な行動が美月の心にに多大な影響を与えているのも気付けないでいる昇太郎であった---
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます