共犯

その後も昇太郎は歩き続け、支部からはかなり遠く離れた、先程よりも人の往来が若干減ったとある地区の大通り。


昇太郎はそこで一旦足を止めた。


美月もそれに応じるように足を止める。


止まった訳を探す為、昇太郎の回りを見回す。


だが、特に診療所や病院などはなく、スーパーやコンビニなどがぽつぽつとあるだけだ。


「普通の通りにある街の景観ね。

特にめぼしいものがあるでもなし。

病院とかもないから彼はお腹なんて本当は痛くないのかしら。」


しばらく回りを見回していると、徐に昇太郎は歩き出した。


「あっ、動いたわね。

さて、本当はどこに行くのかしら。

少し興味があるわ。」


昇太郎は少し歩くと彼の近くにある交差点を右に曲がる。


それを確認した美月は見失わないように小走りで駆け出した。


「そこを右に曲がると何があるのかしら。」


美月は曲がる前にその付近の建物の陰に隠れながら歩道の先を見つめる。


すると、そこにはとある建物を一点に見つめる昇太郎がいた。


「えっと…彼が見つめる先の建物は………えっ?」


昇太郎の視線の先をゆっくりと目で追っていくとそこにはとある有名なカツ丼屋の看板があった。


「ここって…飲食店…?」


何事かを考える暇を与えないように昇太郎はそそくさと飲食店の中へ入っていく。


「ちょっ…待って…!」


とりあえず、昇太郎を追いかける為、慌てて美月も飲食店の中へ入っていく。


「いらっしゃいませ!

1名様ですか?」


「えっ…と…その…。」


店に入るなり、快活そうな店員が出迎えの言葉をかける。


別に飲食をしにきた訳でもない美月は店員の問いにしどろもどろになる。


「お好きな席にどうぞ。」


後から来る客もないように思ったのだろう店員が勝手に人数を判断し、美月に好きな席を選ばせる。


美月はこれをチャンスと取り、すぐに店内を見回す。


そして、一番端にいる昇太郎を捉えると一目散に駆け寄る。


「何でまた早弁してるのよ!?」


昇太郎のすぐ隣に立つと美味しそうにカツ丼を食べる彼が持つ器の傍で容赦なくテーブルを叩き威圧する。


「ん?

おう、先輩じゃないですか。

急にいなくなったからパトロール終わって帰ったと思ったんですけど、ちゃんといたんですね。

いやー、何も気付きませんでしたよ。」


威圧しても全く効果はなく、昇太郎はあくまで自然体のまま、美月に再会の言葉を返した。


「そんな事はどうでもいいのよ!

私が聞いてるのは何でまたこんなところで早弁してるのかって事なの!」


「ちょ、ちょっとお客さん…。」


店員が心配そうになって一触即発な美月に声をかけた。


「分かってます、店員さん!

営業妨害と言いたいのでしょう!?

営業妨害した分の迷惑料は私の自費で払いますのでお構いなく!

だから、今は勘弁して下さい!」


「いや、それもそうなのですが…そちらのお客さんは今飲食中なのであまりそう…乱暴をすると…。」


「結構です、いつもの事なので!」


店員を半ば強引に説得させると再び昇太郎の方に向き直る。


「それで、どうなの!?」


「いやー、実はさっき急に妖魔に襲われて、んで急遽対処したら腹減ったんだよな。

まともに昼飯も食ってなかったから、それも合わさって相乗効果で腹がかなり減ったから我慢出来なくて、こうやって食べてた訳だ。」


「そのお客さんには日頃から贔屓にしてもらってるんですよ。

最近は何も音沙汰がなかったのですが、今日久しぶりに来てくれて嬉しかったですよ。」


「へぇ〜…そうなのぉ…。

ここでずっと職務中にカツ丼を食べてたと…。」


店員の割って入った言葉に低いトーンの言葉で頷きつつ、昇太郎の方を向く。


その目は細く、そして段々と笑みに変わっていった。


笑顔のはずが真から笑ってないように見える。


「今まで積み上げてきた、ここでの職務怠慢の数々、どう落とし前をつけてくれるのかしら?

そういえば、さっきの迷惑料、私が払う予定だったけど、贖罪の為にあなたが払ってもらうのもいいわね。」


「まぁまぁ、ここは飲食店なんだから先輩もここで飯食えばいいじゃないですか。

ほら、一緒に食べましょうよ。」


酒飲みの強引な誘いの如く、昇太郎は美月の腕を引っ張って自分の元に引き寄せる。


「ちょ…ちょっと…!」


そして、姿勢を崩しつつも、何とか椅子に座ると隣にいる昇太郎を睨む。


「あなたねぇ、危ないじゃ…!

!!!」


だが、幸か不幸か、1つの席を隔てた訳ではなく、本当のすぐ真横に昇太郎がいた。


それを認知した美月は顔を真っ赤にし、昇太郎を見つめたまま固まった。


その身体の胸の中は動悸の嵐で溢れていた。


(いやだ…また動悸が…。

こんなに彼が至近距離にあると必ず動悸がやってくる…。

何なのよ、これは!

本当に…何なのよ!)


「一緒に食べましょうよ、先輩。」


その一言を言われた直後、美月は昇太郎から目を背け俯き、そこから借りてきた猫のように大人しくなってしまった。


「先輩の注文は何ですか?」


その様子に全く気付かない様子の昇太郎は美月に注文を尋ねる。


「………。」


だが、当の美月本人は何も返事がなく、石像のように微動だにしなかった。


「先輩、どうしたんですか?」


流石に美月の様子に違和感を感じたのか、昇太郎は美月の顔を覗き込むように自分の顔を近付けた。


「ひゃあっ!」


「うわぉい!

『ひゃあっ』って一体どうしたんです?」


昇太郎が顔を近付けた気配を察知した美月は思わず素っ頓狂な声を上げながら、身体を後ろへ引く。


それに驚いた昇太郎も釣られるように身体を後ろへ引いた。


「何か知らないですけど、注文はどうします?」


「注文…?

えっ…と、その…とりあえず、何でもいいわよ!」


昇太郎が再度注文を尋ねると、頭の中が動悸のおかげで真っ白で何も考えてなく、質問の意図を理解していなかった美月はやや投げやり気味に答えた。


「何でもか…。

それじゃあ、店員さん、定番のカツ丼竹をこの俺の先輩にお願いします。

お代は俺が持ちますので。」


「分かりました、少々お待ち下さい。」


了承したホールの店員はその注文を厨房の店員に伝えにいった。


店員が厨房に消えた事を見計らい、昇太郎は美月の顔を見つめ、ニッコリと微笑む。


「これで先輩と俺は共犯ですね。

もし、後でバレたとしても後で一緒に仲良く上に怒られましょう。」


「!!!」


(一緒…一緒…一緒…いっ…しょ…。

………。)


美月は心の中で「一緒」という言葉を反芻し、1人更に身体の体温を上昇させ、再び目を背け俯く。


それから程なくしてカツ丼が美月の前に上がり、美月は無言でもそもそと食べ始める


無言で食べ続ける美月を気遣ってか、昇太郎は美月には話しかけず、店員と世間話をしながらカツ丼を食べ続けた。


物の数分で美月はカツ丼を食べ終わり、それに気付いた昇太郎は店員との話を切りのいいところで切り上げ、2人分の会計を済ませた後、店を出た---















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