尾行

大通りに戻り昇太郎が背後から付いてくるなり、美月は俊敏に行方を晦まし、昇太郎の目を欺く。


そして、上手く立ち回りながら、逆に昇太郎の背後に陣取った。


「よし、なんとかなったわ。

まぁ、石金と呼ばれた私にかかれば、相手の目を欺きつつ、背後に回り込むなんてお茶の子さいさいね。

さぁ、そんな事よりも観察開始よ。」


彼の様子は美月が背後に回った直後から大きく変わった。


「ふふん、見失って辺りを見回してるわね。

残念、私は既にあなたの背後にいるのよ。」


しばらく辺りを見回した昇太郎だが、やがて諦めたように歩き始める。


「どこに行くのか分からないけど、とりあえずしばらくの間、尾けさせてもらうわよ。」


美月は昇太郎とある程度の間隔を空けながら歩き始めようとして、その動きそうな身体を強制的に前の位置に引っ込めた。


彼も彼で数歩歩いた程度でピタリと止まる。


「何よ、歩き始めたと思ったら、ちょっと歩いたところで、まるで私に気付いたかのように止まって…。

詰まらない、詰まらないわよ、不躾男!」


すると、彼は途端に脇に差してある鞘に手をかける。


「えっ?

何で急に刀なんかを…。

もしかして、急に止まったのもその為…!?

でも、どこに妖魔が…!」


美月も彼に釣られるように刀に手をかけ、辺りを見回すが、姿どころか、あの独特な声すらも聞こえない。


おそらくは彼の付近にいるのだろうと思い、昇太郎の周りを凝視するが、妖魔の姿はどこにもいない。


だが、しばらくすると、昇太郎の位置から左に見える建物の陰が微かに動いた。


その陰は動いた直後、また建物の陰と一体化するように動かなくなったが、数秒後に何の予備動作もなく、建物の影から飛び出し、昇太郎に急襲した。


「はっ!」


だが、昇太郎はそれにまるでそれを待ち侘びたかのように陰が出てくるとそちらに目を向けると同時に鞘から出てる柄を目にも止まらない速さで引っこ抜いて影を横に真っ二つにした。


その陰は上と下で別れ、液体を盛大に吹き出すと、一度空中で弧を描きながら、地面に鈍い音を立てて落ちた。

 

斬り終わると昇太郎は刀を鞘に納めた。


それを美月は後ろの方で呆然とした顔で一部始終を眺めていた。


「な、何…何なのよ、あれは…。

彼は横に目でも付いてるのかしら。

それとも、妖魔に対しての気配が敏感なのかしら。

私でも全然気付かない妖魔を感知している。

そもそも、自分で言っておいて、気配とかは何も分からないしね。

彼は異常だわ。

以前から妖魔と戦い慣れてるとは思ってたけど、妖魔が近くにいればすぐに気付くような人間以上の感覚がある。

まぁ、彼が分かる『近く』の基準がどの程度なのかは分からないけど…とにかく、彼は凄すぎるわ。

まるで、昔から妖魔と戦っていたかのような感じね。」


戦いが終わると昇太郎は腹に手をかけ、そのままさすり始める。


「いや、そんな事よりもまた何か…えっ?

お腹をさすってる…?

!!!

まさか、さっきの戦闘で密かに怪我を…!

そうね、倒したとはいえ妖魔に急襲されたのだもの。

傷の一つや二つ、負っていてもおかしくないわ。

そうよ!

だったら、すぐに支部に連れ戻さないと…!」


美月はすぐさま昇太郎の元へ駆け出そうとしたが、すぐにその足を止めた。


彼女の予想と反して、彼の足は支部の方とは逆の方向に進んでいたのだ。


「ど…どういう事!?

支部の方に帰って治療とか労災とか受けるんじゃないの!?」


彼の行動に疑問を感じつつも、心配な美月はその後をある程度の間隔を空け、建物の陰に隠れながら付いていった---








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