低賃金雇用者

「おい、獅子谷!

何度言ったら分かるんだ!?

ここ青原支部の在り方、口酸っぱくなるまで説明したよな!?」


ここは青原支部内の事務室。


今ここでは例の職務怠慢の男が直属の上司から叱責を受けていた。


支部内にいる数多くの隊員が見ている中、そんな状況でも構わずに支部内全域に響き渡るような大声で男を叱る様は恥辱以外のなにものでもない。


だが、そういった恥ずかしさに慣れているのか、男は全く意に介さない様子だった。


むしろ、怒られている自覚すらもあるのかさえ疑問である。


「この青原の市民の為、いや、スケールを大きくすればこの青原の平和の為、俺達は日夜、管制室からの連絡を待ち、連絡が来れば直ちに現場へ急行し市民の避難を最優先にしながら出てきた妖魔を殲滅する。

それが俺達の職務だ。

この事を俺はお前がここに新入隊員として入職してすぐに何回も教えたのにいつになったら分かってくれるんだ!?」


「先輩こそ、俺の言ってる事をいつになったら分かってくれるんですか?」


心底面倒臭そうな表情をしながら上司と同じように立ち上がり始めるこの男。


名前は獅子谷昇太郎ししたにしょうたろう。


今まで散々説明してきたが、この男は青原支部に入隊するまでは時折青原支部の妖魔殲滅を手助けし、入隊してからは度々職務怠慢を繰り返す駄目なようで駄目ではない男。


「先輩は俺の入職手続きを円滑に進めてくれた立役者です。

だったら、俺の立場を一番よく理解してるはずです。

俺はこの青原支部に入職したとはいえ、あくまでもあなた方に頭を下げて懇願された上でここに入隊した、言わば雇用者です。

何か知らないですけど、ここってかなり経済難なんですよね?

だから、これ以上隊員を普通の賃金で雇う事が出来ないとか。」


ここ青原は田舎なだけあってあまり金が回らないのが一番な問題でもある。


その金は田舎の中でも余程の金持ちに回ってるのかは知らないが、青原支部はこれ以上の人を雇う金は持ち合わせていないそうで、今現在の隊員に対して金を回すのに手一杯なのだ。


「そこで時々状況が困窮している時に手助けしてくれる俺を何度か見かけて、ついこの間声を掛けて、半ば強制的に低賃金ででここに雇い入れた訳ですよ。」


「ぐっ!」


分かっているが今の今まで目を逸らしてきた現実に上司は苦虫を噛み潰したような顔をして、呻き声を上げる。


「一応少ないお金で貰ってる訳ですけど、だからといって全部が全部ここでの待遇に納得してる訳じゃないです。

こんな状態がずっと続くんだと思うと、俺だって癇癪起こして、コンビニで職務中に早弁したりとかしてしまいますよ。

本当は嫌なんですが、どうしても納得いかなくてですね。

ですが、だからと言って無理にお金を吊り上げようとかしなくていいです。」


昇太郎は若干無理してそうな作り笑いを浮かべた。


「そんな事したら支部の人全員にお金を回せなくなるし、もし倒産でもしたら、この青原の平和を守れなくなりますからね。」


そうして、自分で話を切り上げるかのように席に座り、上司に対しては興味を失ったように見向きもしなくなった。


上司は唖然とした表情で最早怒る気さえ起こらないようで、周りで見てた隊員達も上司同様唖然とした表情で昇太郎を見ていた。


しばらくの沈黙が続いたが、それを打ち破るかのように1人の女が事務室に入ってきた。


「隊長、お疲れ様です!」


そう隊員の1人が声を発し、頭を90度に下げた。

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