斬り込み隊隊長
時は遡り、職務怠慢の男がコンビニに入ると同時刻の頃---
「…草商団地そうしょうだんちの線路沿いにて住民に急襲中の妖魔の群れを発見!
至急現場に向かえ!」
「草商団地の線路沿い…。
ここから近いわね。」
無線機からの司令部の声を聞くなり、女は即座に走り出す。
ここは草商団地に入る為の橋の近くにある無人駅。
ここ周辺はコンビニやスーパーなどもなく、文房具や菓子などを中心に売っている雑貨屋が一軒あるくらいだ。
それが理由で日々閑散とし、人の往来もあまり少なく妖魔の現出頻度が多い地域の1つでもある。
それを懸念し、女はこの無人駅周辺を見張っていた。
思惑は外れたが、それでもここよりかなり近くに現れて、内心完全に当てが外れた訳でもないと思っていた。
「絶対に見逃さない!
かなり近くに現れてくれたんだもの!
ここで見逃したら斬り込み隊隊長としての矜持を汚してしまう事になるわ!」
女は橋を通り抜け、草商団地に入る。
そこから無我夢中で走り続けていると、一粒の黒い点が見えた。
「あっ、あれだ!」
その点は近くを通りかかった曲がり角を曲がっていった。
「7番通りの方に曲がったわね!
絶対に逃さないわよ!」
女は走り続け、7番通りに近付くにつれ、走る速度を落とし、7番通りの曲がり角付近で一旦足を止めた。
そして、気配を殺し、未だに気付かない妖魔の群れに近付いていく。
腰を落とし、石や雑草の生えない平らな道を音を立てないように歩きながら妖魔の群れに近付いていく。
その後も快調に近付き、手を目一杯伸ばせば届くところにまで来た辺りで脇に差してある鞘の柄に手をかけた。
ゆっくりと柄を握り締め、手が柄をすっぽりと包み込んだ瞬間に思い切り強く握る。
そして、渾身の力を込め、その刀を横に薙いだ。
「グェエエエ!」
「ギギギ?」
今ので半分程の妖魔は即死し、ようやく女に気付いた残りの半分程の妖魔は慌てて後ろに跳躍し距離を取った。
「逃さないわよ!
態勢を立て直される前に全部斬り捨てる!
やぁぁぁあああ!!!」
「グェエエエ!」
女は一気に間合いを詰めるように走り、残り半分程の妖魔を斬り付ける。
軽やかな風のような斬撃に残りの妖魔も一撃のうちに葬り去られた。
全ての妖魔を殲滅した女は返り血を浴びた刀を一振りし、返り血を落とした後、鞘に納めた。
そうこうしているうちに他の隊員も駆け付けてきた。
「草商団地だからこの辺りにいると思うんだけど…。」
現場近くにやってきた隊員の1人はキョロキョロと辺りを見回しながら妖魔の群れを探し始めた。
近くに駆け付けてきた隊員の1人に女は悠々と近付いていく。
「私が全て殲滅したわ。」
「えっ?
あっ、美月隊長!
もう来てたんですか!?」
「当然よ。
斬り込み隊長だもの。
他の皆の戦闘をより有利に進められるように一番槍をして、先陣を切る役目なんだから。」
「ですが、もう既に殲滅してしまったんですね。」
「ごめんなさい。
数が思ったよりも少なかったから全部倒したわ。」
「そうなんですか。
やっぱり、美月隊長は凄いです!」
「今更じゃない。
いつものような戦い方でいつものように敵を殲滅しただけだわ。
それじゃあ、職務も果たした事だし、先に帰ってるわね。」
「はい、お疲れ様です!」
女は黒い長髪を手で靡かせながら身を翻し、支部の方へ帰っていった。
その様子を隊員の1人が頭を90度に数秒下げた後、徐に顔を上げて見送った。
その顔には憧れのような優しい笑みがあった。
「各員に通達!
石金いしがねが妖魔の群れを殲滅!
繰り返す…」
そして、妖魔殲滅という名の舞台の幕を引くように無線機の無機質な司令部の声が各隊員の耳に鳴り響いた---
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