職務怠慢
「各員に通達!
隊員3番が
至急現場に向かえ!」
無線機から発せられる青原支部の司令部の無機質な声が妖魔を捜索中の隊員達の耳に響き渡る。
青原中を探索していた隊員全員は一様に足並みを揃えて草商団地に向かった。
全員が真面目に妖魔殲滅の務めを遂行する中、ある男だけは違い、職務怠慢と言わざるを得ない行動をしていた。
「やっぱカツ丼はいいな。
美味くて安くて、何より腹一杯になる。
このボリューミーな食べ応えは日々、妖魔殲滅の務めに駆り出されて青原を走り回る俺の腹には十分過ぎる食べ物だ。」
割り箸を持つ右手の全神経をカツ丼に集中させ、一心不乱にカツ丼を搔っ食らうこの男。
この男こそが今現在絶賛職務怠慢中の青原支部には最近入職したばかりの新人だ。
先程までは多少真面目に妖魔の群れを捜索していたが、僅かばかり腹が空いたからといって近くのコンビニに寄り、カツ丼を買い、このようにしてイートインコーナーで食べていたらしい。
味わっているのか味わっていないのか分からない食い方でカツ丼を食べているとコンビニを横切りそうになった妖魔探索中の隊員の1人が男を発見した。
慌ててその場で足を止め、コンビニに入り、怒りの形相を露わにしながらズカズカと男に近付く。
「おう、やってるか。
悪ぃな。
走り過ぎて腹減っちまって、我慢出来なかったら近くにこのコンビニがあったから立ち寄って早弁してたわ。」
隊員の怒りという炎に更に油を注ぐような軽薄そうな声の調子で弁明する男。
隊員は無言の代わりに怒りで肩を震わせ、有無を言わさず、男の手を無理矢理引いた。
「お、おい。」
そのままコンビニの外に出て裏路地に入ったところで男の手を離した。
「何だ、一体どうしたよ?」
ここに来てようやく隊員が口を開く。
「お前は一体何をしてるんだぁあ!?」
勿論、分かっていた事だが、顔の表情の表現をそのまま口に変換し、男に対して怒鳴りつけた。
「何って…今更だな。
見て分からないか?
飯食ってんだよ。」
怒ってるのにも気付いていないような様子で淡々と男は答えた。
「それは分かってるんだよ!
俺が聞いてんのは何でお前はこんなとこで飯を食ってんだって事だ!
忘れたのか!?
今職務中なんだぞ!?
昼休憩にもなってない職務時間真っ只中だぞ!?
分かってんのか!?」
「分かってるさ。
だから言ってるんじゃん。
腹減り過ぎてヤバいから飯食ってた、悪いなって。」
「お前、まだ理解してないようだな。
いいか、お前が今就いてるしょ…」
「各員に通達!
石金いしがねが妖魔の群れを殲滅!
繰り返す、石金が妖魔の群れを殲滅!
各員、速やかに帰還せよ!」
男に簡単に分かりやすく、且つ、怒りを最小限に抑えながら隊員が説明していると、再び無線機から司令部の無機質な声が響いてきた。
「美月みづき隊長が殲滅したか。
隊長、やっぱり凄い!」
隊員は無線機からの声が聞こえてくるなり、男から顔を背け、小声で何やらブツブツと独り言を喋り出した。
「えっ?
何だって?」
「!!!
なっ、何でもない!
無線で聞こえただろ!
さっさと支部に帰るぞ!」
自分の奇行を間近で見られ、恥ずかしさのあまり誤魔化し、男に一緒に帰還するように促した。
「あん?
まぁ…分かった。
あ…でも、まだカツ丼途中…。」
男はカツ丼をまだ食べ残してる事に気付き、足早にコンビニのイートインコーナーに戻ろうとする。
「帰るぞ。
ちゃんと金は払ったんだろ?
だったら、店員が残したと思って勝手に捨ててくれるだろう。」
すかさず、男の行動に気付き、その手をガッチリと離さないように掴んだ。
「えぇー…勿体ない…。」
「いいから帰るぞ!
終わったからといって今はまだ職務中だ!
帰るまでが職務だ!
分かったら黙ってついてこい!」
「ちぇっ、分かったよ。」
男は渋々、隊員の言葉に頷き、彼の後に付いていった---
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