恒常の日 その2
「たぁっ!」
「ギャアッ!」
まずは縦に垂直に斬る。
重くのしかかるような一撃に斬られた妖魔は真っ二つに胴体を切り離された。
挨拶程度などとは言うまい。
最早、そのようなものとは度を越し、他大多数に対する威圧に近かった。
それを見た大多数の妖魔は一瞬怯えの色を見せたが、すぐに気を取り直し、男を取り囲んだ。
「ニヤリ…。」
だが、男はそんな対抗策などものともしないように不敵な笑みを見せた直後、持った刀を真横に引いた。
そして、数秒の間の後、薙ぎ払うように一回転しながら刀を真横に振り回した。
「うぉぉぉおおお………!!!」
「ギャアアア!!!」
妖魔達は肉片となってあちこちに飛び散った。
血の雨が降り注ぐ中、男は遊歩道の先を見やる。
そこには先程の斬撃で倒し損ねた妖魔がいた。
妖魔は一点に男を見続け、身体全体を小刻みに振るわせていた。
やがて、妖魔は我に返ると戸惑いながらも後ろへ振り返り、走り出した。
「まぁ、逃げるんだったら逃げてもいいが、乗りかかった船だ。
最早、敵意がないお前には悪いが、この青原の住民達の為にも死んでもらうぜ。」
男は助走をつけながら持った刀を思いきり投げ飛ばした。
刀は回転しつつ、飛ばされる先は逃げる妖魔を確実に捉え、そのまま狙いが逸れる事もなかった。
飛ばす速度は慌てふためきながら逃げる妖魔よりも格段に速く、徐々に距離を縮め、そして遂には妖魔の心臓を貫いた。
「ギャアッ!」
投げた後も男はその場で固まっていたが、刀が妖魔を貫いた事を確認すると、悠々と妖魔に向かって歩き出した。
そして、妖魔の所に辿り着くと加減知らずに刀を抜いた。
湯水のように血が吹き出た妖魔はそのままゆっくりとうつ伏せで倒れた。
「じゃあな。」
倒れた妖魔にその言葉を言い残すと極め付けと言わんばかりに足を真上に上げ、容赦なく妖魔の頭部に向かって踏み付けた。
聞くに堪えない音が鳴り響いた瞬間、妖魔の頭は以前の原型を全く留めない程に破裂していた。
破裂した際の肉片は男の踏み付けた足の周囲の床に飛び散り、まるで水面の波紋のようだった。
「ふん、つまんね。」
事もなげな様子で全ての妖魔を倒した男はとりあえず妖魔の返り血でべっとり濡れた刀を一振りし、返り血を払った。
すると、近くの住民が知らせてくれたのか、青原支部の隊員が2人駆け付けてきた。
(もう俺が全部殺っちまったが、まぁ一応報告しとくか。)
男は刀を腰の鞘に仕舞うと走ってくる隊員とは対照的にゆっくりと隊員の方に歩いていった。
「またあなたでしたか。
いつもありがとうございます。
ご協力感謝致します。」
隊員の2人が深々とお辞儀をする。
このようなやりとりは男と青原支部との間ではいつもではないが男が現場に居合わせた時には必ずあるのだ。
「礼はいらないさ。
また偶然、俺が半分寝ぼけ眼で歩いているところを急襲されたから、返り討ちにしただけだ。」
片手をひらひらと振りながら男は隊員2人に言葉を返す。
「そんじゃ、俺はもう行くわ。」
踵を返し、散歩していた道を歩き始めると然程時間が経たないうちに後ろの隊員2人が小声で話し合い始めた。
「おい、例の件、伝えた方がよくないか?」
「まぁ、そうだな。
支部のお偉いさん方も次会う時には伝えてくれと頼まれてたし。
だけど、本人が了承してくれるかどうかまでは…。」
「まぁ、そこら辺云々はいいとして、とりあえず言ってみよう。
お偉いさん方もそこら辺は問わないと言ってたし。」
「まぁ、確かにそう言ってたな。
よし、言ってみるか。」
しばらくの小声での話し合いが続いた後、彼らは男のところに駆け寄っていった。
「すみませーん、ちょっと待って下さーい!」
「はぁ…あぁ?」
男は少し溜め息を零しながらも駆け寄る彼らに頭だけを振り返らせた。
「すみません、呼び止めてしまって。
実はあなたに折り入って頼みがあります。」
「お、おう…。
何だよ、急に改まって。」
彼らの普段とはまた違った神妙な態度に男は面倒臭さなど反射的に捨て去り、頭だけではなく、身体全体を彼らに向き直らせる。
だが、彼らが言ったこの「頼み」こそがこの男のこの先の人生を大きく左右するとはこの時のこの男は知るはずもなかった---
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます