綻びのこがね
フジ
恒常の日 その1
人を惑わし、その血肉を喰らい、命の糧とする妖、「妖魔」。
彼らは古の昔に存在した太古の妖、「妖怪」の進化した形態である。
彼らは古より人間と同じ環境で生活していながら、人間とは相容れぬ存在であり、故に人間の生活を脅かし、人間の血肉を食らって今の今まで生きてきたのだ。
勿論、人間達もむざむざと喰らわれてきた訳ではない。
彼らに対抗する存在として、元々戦などで活躍していた侍や武士が退治をしていたのだ。
両勢力は一歩も譲らず、互いに互いを殺し合い、勢力の均衡を保ち続けていた。
その争いは子孫代々にまで渡り、絶える事はなく、現在にまで至る。
日本列島の最南端、海を隔てた手前にあるとある田舎の街、「青原」。
田舎であるが故に人も疎らで妖魔の被害は他と比べて少ない。
だが、田舎であるが故、自然の営みがそこかしこに満ち、そこに訪れた者が人知れず喰われてしまうのだ。
更に人が疎らである事も災いし、少人数であるところを襲われ、喰われてしまう事もある。
そこで彼ら人間は青原に限った事ではないが、ある組織を結成した。
それが「日本特殊超常殲滅本部」。
通称、「
青原の場合は「青原支部」である。
とある日の昼下がり、その日はいつにも増して妖魔の出現数が多く、青原支部はいつもより忙しなく青原の方々に駆り出されていた。
心地良い日差しに照らされながら、欠伸をして、まだ眠いのか、若干覚束ない足取りで人の往来が疎らな遊歩道を歩く、この男。
その男はこれから起こる出来事をこの時点ではまだ知る由もなかった。
「オォオオオオオ………!!!」
「ん?
うわっと!」
男は自分に迫り来る物体に直前に気付き、瞬時に後ろへ飛び退いた。
先程まで心地良い日差しに少し微睡んでいたが、このような肌に感じる殺気や防衛本能は微睡みの中でも敏感らしい。
「何だ!?」
男は何事かと思い、すぐさま先程自分に迫り来た物体を睨め付けた。
その者は四足歩行でありながら、腕は2本という若干人間寄り。
淡く光る透き通った白い目。
片手には日本刀のような物を所持している。
鶏冠のような頭をして、全体から眺めるに真っ黒な肌をしていた。
見るからに人間とは似ても似つかぬ異質な存在なその者は正しく、今日の昼下がりから青原の住民を困らせていたあの者だったのだ。
「何だ、妖魔か。
ったく、ビビらせやがって。
妖魔如きが俺の肝っ玉を冷やした報い、どんなものか知っててやったんだろうな?」
何やら妖魔にいつも世話を焼かされているような口ぶりだが、それに嘘偽りはなく、この男の言う通りだった。
時折、このように襲われる事はあるが、今のように妖魔の数が著しく多く、青原支部の人手が足りない場合は不本意ながら自ら進んで退治しているのだ。
男は徐に脇に差してある鞘に手をかけ、柄を掴み、刀を抜いた。
そして、立て続けに刀を構える。
殺気が強いのか、いつの間にか、それに惹かれるようにわらわらと妖魔が集まってきた。
「面白ぇ。
1匹だけじゃ生温いからな。
大人数でまとめてかかってこい!
行くぜ、へちゃむくれ共!」
男は掛け声と罵声と共に妖魔達に突っ込んでいった。
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