この海はわたしの海ではない(海)

 さびしい雨に濡れた道はいつしか舗装が途切れて松林の向こうの砂浜へ続いていく。松林は防風林で、いちように同じ方向へ曲がっている。砂はしっとりと湿っている。夏は海水浴客で賑わうという浜は今は静かだ。空までひとつづきに灰色。テトラポッドに大きな白い鳥がとまっている。

 コンクリートの低い階段には砂と、波に洗われて丸くなった石、小さな流木、ピンク色のプラスチック。ここまで海が上がってきたときがあるだろうか。腰掛けて水平線へ目をやる。波打ち際をひとりだけ歩いてきた作業着のひと、青いバインダーを持っている、遠いけれどおそらく少し不思議そうな顔をしてこちらを見、そしてまた向こうへ歩いて行った。ほかにだれもいない。

 この海はわたしの海ではない。ふるさとのあの海も、訪れるときはいつも冬だ。くらい空、青黒い沖にどうどうと波が立ち、さむい浜に寄せては引くだけで、けれどこの海は、どうしたってちがう海。


 ああ、でも、知っている。あの海もわたしの海ではない。海はただ、海なのだ。目を閉じる、船も汽笛を鳴らさない。

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