やわらかな夢(夢)
かばんに紫芋みたいな色のジャージをぱんぱんに詰めていた。通る道はいつも同じ土手へ続くのぼり坂で、その突端から風に飛ばされ、はっと気が付けば教室にいる。体育だから着替えなければならない、ジャージに足がなかなか通らない。校庭にやわらかな雨が降り出した。「ねえ次のマラソン中止らしいよ」あたしは西野さんと櫻井さんの間にいる。ふたりともあたしの方を見て穏やかに笑っている。向こうにいる田中くんと牧野くんもこちらへあたたかな目線を向けている。あたしはリラックスしている。雨は少し強くなった。目が覚めた。「クラスの居心地がいい」というだけの夢を三十二歳になったいまも時々見る。実際には小学校も中学校も高校もあたしのことを嫌う目のほうが多かった。そんなことをつい何度も話すうちに数少ない、大人になってからできた友達も去って行った。ああ、あたしがぐずぐずと立ち止まっているうちに、みんな行ってしまった。隣で眠る夫を起こさないようにそっと身を起こして、あたしはしばらくやわらかな夢の余韻に身をゆだねていた。
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