のろいの路地(路地)

 詩織ちゃんとは月に一度、移動図書館で会う。同じクラスだけどしゃべったことはない。移動図書館のバスは、うっそうと茂る木と木に覆われた細い路地のすぐ隣に停まる。移動図書館のことをみな知らないのか、学校の子で来るのはわたしと詩織ちゃんだけで、そのほかはおばあさんばかり。わたしは、詩織ちゃんと話してみたかった。


「あのさ、この路地、のろいの路地なの、知ってる」


 隣のクラスの友達にきいた話だった。怖がりのわたしは言いながら胸がどきどきする。


「通ろうとすると途中で呼ばれて、振り返ると出れなくなるんだって」

「うそだよ」


 詩織ちゃんの声を、初めてきいた気がした。大きな目がこちらを見ていて、ぎくりとした。


「あたし、この向こうに住んでるもの」

「え、」

「でも本当かもね」

「……、」

「あたしはいつか、絶対出てやる」


 そう言って詩織ちゃんは、のろいの路地を駆けて行ってしまった。本も借りないまま。詩織ちゃんの読む本はいつも大人の本みたいだった。濃い影の下、石畳の水たまりから、詩織ちゃんの足跡だけ点々と続いていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る