続・かどまるくん(文房具)

「あっ佐野さん、これかどまるくんしてもらってもいい?」


 背後からチーフの声がした。アルバイトで入ったばかりの佐野さんが、緊張した面持ちで顔を上げる。


「っていうかチーフ、かどまるくんって正式名称じゃないですからね!」


 隣の席の奈緒ちゃんがツッコミを入れる。えーそうだっけ、とチーフ。


「そうですよ、かどまるPROです」

「えープロなの?ランクアップじゃん、かどまる師匠みたいな」

「なんだそりゃ」

「歌丸師匠か」

「角取り師匠だ」

「姑の性格の角も取ってほしいわ」

「まったくだ」


 狭い事務室のあちこちからギャハハと笑い声が上がる。チーフの声も笑っていた。


「いいじゃんねー、かどまるくんで」


 かわいそうにタイミングを見失っていた佐野さんは、しかしぱっと立ち上がり、はいっ、と返事をした。


「かどまるくんっ……、でいいと、思います」


 ね、やっぱそう思うでしょ?とチーフは言い、じゃあ行くねー、とジャケットを羽織って出て行く。笑いの余韻を残したまま、皆それぞれの仕事に戻る。ぱちん、とかどまるくんがなにかの角を取る音がした。

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