第13話 学院での状況
翌日、ディランが学院の門の前で待っていると、エミリーはシャーロットやその友人たちと共に登校してきた。どうやら、シャーロットたちと仲良くなれたようでエミリーの表情も明るい。周囲に人だかりもなく、取り巻きが消えているようにも見えた。
しかし、ディラン同様、魅了状態の男子生徒たちもエミリーの登校を待っていたようだ。エミリーが学院内に入ると急に周囲が騒がしくなる。ディランは傍観者のままではいられず、エミリーを助けるために急いで近づいた。
「みんな、おはよう」
「あら、ディラン。おはよう」
「「「「おはようございます。ディラン殿下」」」」
ディランは、牽制するように周囲をぐるりと見回すが、その視線で引いてくれる男子生徒の方が少ない。
(兄上なら、一発で解散させられるのにな)
同じ王子でも、周囲の扱いはかなり違う。ディランは慣れてしまっているが、エミリーを守れないのは少し悔しい。
楽しそうにしているエミリーには申し訳ないが、ディランは昨日と同じようにエミリーを隠すことにした。
「エミリーを借りてもいいかな?」
「構わなくってよ」
シャーロットの返事を聞いて、ディランはエミリーとともに女性陣から離れる。人前で隠蔽魔法を使うと騒ぎになるので、それは避けたい。ディランは、建物の陰に隠れるようにして、エミリーに隠蔽の魔法をかけた。
魅了状態の男性のみに効果のある魔法があれば良いが、ディランには難しい。できるのは術者であるディランを対象から外す程度だ。
「ディラン殿下、ご迷惑おかけして申し訳ありません」
「気にしなくていいよ。それより、楽しそうに話してたのにごめんね」
「私のためですから、気になさらないで下さい」
エミリーは小さく首を振って笑顔を作る。ディランは周りから隠蔽したエミリーとともに校舎に入った。
二人で廊下を進む間も、姿の見えないエミリーを探し回る男子生徒と何度もすれ違う。ディランはエミリーの怯えるような顔が見ていられなくて震える小さな手を握った。エミリーは驚いたようにディランを見上げたが、力なく微笑んで手を握り返してくる。
短くも長くも感じた廊下の先には、すでに人だかりができていた。エミリーの教室前だが入口が塞がれている。エミリーはギョッとした様子で立ち止まったが、深呼吸してからディランに視線を向ける。
「ディラン殿下、ありがとうございました。ここで大丈夫です」
「待って、もう少し廊下で待とう」
エミリーが繋いだ手を離そうとしたが、ディランは逆に握り合う手に力をこめた。今隠蔽を解くと授業が始まるまで魅了された生徒に取り囲まれて過ごすことになる。
「殿下が授業に遅れてしまいます」
「大丈夫だよ。僕、こう見えても王子様だし。いざとなったら、魔法で誤魔化すからさ」
「すみません。ありがとうございます」
ディランがいたずらっぽく笑うと、エミリーもホッとしたように笑って隣にとどまった。やはり、一人では心細かったのだろう。
「エミリーはいないのか?」
「今日は来るのが遅くないか」
「女子寮まで迎えに行ったほうが良いんじゃないか?」
エミリーは名前を呼ばれる度にビクリと肩を揺らす。魅了状態の男たちは減るどころか徐々にエミリーの教室へ集まって来ている気がする。エミリーがぎゅっとディランの手を握るので、ディランも安心させるように握り返した。
ゴーンゴーン
しばらくして、授業開始の鐘がなる。
「そこの生徒たち、早く自分の教室に戻りなさい!」
教師たちが怒鳴りつけて回ると、魅了状態の男たちはガッカリした様子でそれぞれの教室に散っていった。注意を受け入れる理性が残っていることにいくらか安心する。
「じゃあ、僕も行くね。何かあったら僕の教室に来てくれてもいいから、無理しないでね」
「はい、ありがとうございます」
エミリーが泣きそうな顔でお礼を言うので、ディランは頭を撫でる。エミリーが席につくのを見届けて、エミリーにかけてあった隠蔽の魔法を解いた。
(根本的な解決より、エミリーの生活を安定させる方が急務かな)
エミリーが魅了状態の生徒たちに命令すれば追い払えるのだろうか? 『誘惑の秘宝』や魔法薬による魅了の場合はできるが、原因がはっきりしない現状、刺激を与えて予想外の暴走をされるのが怖い。
(兄上はどうするつもりだったんだろう?)
何か策があるのかもしれないが、この国に帰ってくるまでは聞くこともできない。だからこそ、引き継ぎなしで押し付けるのはやめてほしかった。
ディランは考えながら自分の教室まで行き、自分の姿を隠蔽して中に入った。授業は始まっていたので、席について教科書を広げてから隠蔽を解く。急に現れたディランに教師が目を丸くしていたが何も言ってこなかった。
(注意してくれてもいいのに……)
こんなにはっきりと忖度されると逆に申し訳なくなってくる。ディランは心の中で教師に謝って、いつもより真面目に授業に参加した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます