不快な視線

 夜斗は夜那の手を引いて、チーア食堂への道を歩いていた。日すでに傾き始めている。

 夜那はというと、唇をいじりながら、考え事をしていた。


「夜那、さっきからどうしたんだ?」

「……ギルドにいた時、じっと私を見てくる奴がいた」

「今さらだろ? 俺たちがギルドに行くと、たいていの奴らがバカにするか、畏怖いふの視線を向けてくる」


 夜那は首を振った。


「違う。そうじゃない。いつものそういう視線じゃなかった。考えが読めないもの……。それにあの視線、広場の騒ぎの時にも感じたような気がするの」

「あの広場には大勢いたんだ。見ていた奴だっていただろうさ。それに、いろんなことがあったから疲れてるんだよ。今日は早めに休め」

「……そうする」


 夜斗の言葉に、夜那は頷いた。


 二人がチーア食堂に戻ると、店には数組の客が来ていた。

 カウンター越しに、アサギが二人に声をかける。


「おかえり。二人とも。無事に手続きは済んだかい?」

「ただいま」

「ただいま戻りました。手続きも無事に」

「そうかい。それはよかった」


 兄妹がカウンターに近づくと、アサギは申し訳なさそうに眉尻を下げた。


「悪いんだけど、早めに夕食を済ませてくれるかい? これからの時間、混んでくるんだ」

「わかりました。なら、食べ終わったら手伝いますね」

「私も。運ぶくらいはする」

「助かるよ。ありがとね、二人とも」


 夜斗と夜那がカウンターに座ると、アサギはカレーを置いた。飲み物は夜斗にはロッソ。夜那にはシーノを置く。


「急いで食べなくていいから。ゆっくりしっかり、食べるんだよ」

「「はい」」


 アサギは料理を作るために、奥へと引っ込んだ。兄妹も食べ始める。

 しかし、夜斗は大きく口を開けて食べるが、夜那は小さな口で少量しかいれない。必然的に食べるスピードが異なり、夜斗はあっという間に食べ終わってしまった。


「夜那はゆっくり食べてろ」

「ん」


 ロッソを飲み終え、夜斗は自分の食器を片しに一足先にカウンターに入る。それからアサギの指示を受けて、カウンターとホールを行き来する。

 夜那はその様子を見ながら、マイペースにカレーを食べ進めていた。


「ごちそうさま」

「夜那、食べ終わったか?」

「うん。はい」


 夜斗は夜那に差しだされた食器を受け取る。


「夜那は注文を受けて、運んでくれ。料理は俺とアサギさんで作るから」

「わかった」

「じゃあ、これを頼む。あっちの席の人たちのな」


 夜斗から受け取った複数の料理を、夜那は器用に運ぶ。


「お待たせ、しました」

「あらあら、ありがとう」

「あの男の子もだけど、あなたも初めて見る子ね」

「アサギさんのお知り合いなの?」


 三人組の女性は、料理を受け取りながら、夜那に声をかけてくる。


「今日、この街に来たの。それで、家を探してるって言ったら、置いてもらえることになったの」

「あら、そうなの」

「よかったわね。アサギさん、すごくいい人でしょ」

「ごはんも、おいしいしね」


 夜那はコクリとうなずく。


「優しくて、ご飯もおいしい。置いてもらって、よかった」


 夜那の言葉に女性たちは、フフフと笑った。


 その後も、夜那は来た客たちの注文を受けて運んでは、声をかけられ、少し話をする。

 来る客たちは、ほとんどが馴染みばかりで、夜斗と夜那の様子を優しく見守っていた。


 しばらくして、夜斗が夜那に声をかけてきた。


「夜那。先に部屋に戻ってろ。疲れただろ」

「でも……」


 夜斗に言われ、夜那が迷っていると、アサギが声をかけてきた。


「もうだいぶ、落ち着いてきたから。こっちは大丈夫だよ」

「わかった。おやすみ」

「はい。おやすみ」


 二人に促され、夜那は一足先に部屋へと引き上げた。

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