これからのこと 2

 兄妹はさっそく荷物をまとめだした。


「そうと決まれば、早速行くか。会計、お願いします。あと、旧市街の具体的な場所を教えていただけると助かります」

「ほ、本当に行くのかい?」

「うん」

「俺ら、これでも二つ名持ちですし、冒険者階級はミスリルですから、腕に自信はあります」


 二つ名を持つということは、戦うことを生業としている者たちの間で、強さの証明を表す。ましてやミスリル級は、最高ランクであり、よほどの実力がないとなることはできない。

 アサギはため息をついた。


「ちょいとお待ち。そんな危ないところに行くなら、うちの屋根裏部屋を使いな」

「はい?」


 アサギの予想外の言葉に、夜斗はまじまじとアサギの顔を見つめる。彼の瞳には、うっすらとではあるが、警戒心が混じっていた。だがアサギは、それに気づきつつも話を進める。


「あんまり掃除をしないから、少し埃っぽいかもしれないけど、結構な広さの部屋だよ。ベッドもちょうど二つある。シーツとかは換えれば問題ないだろう」

「……」


 夜斗は首筋を撫でながら、考え込む。それは夜斗が何かを考えるときの癖だった。そのあいだも、アサギの話は続く。


「自分たちで掃除をするのなら、貸してあげる。景色も日当たりも、風通しもいい。買い物だって、この周囲にもお店はあるし、メイン通りに行くのも一直線だから、不便はしない。ついでに三食の食事つきだ。いい物件だろう?」

「……たしかに。ちなみに、家賃は?」

「あんたたちの仕事がないときに、店を手伝ってくれればいいよ」

「……条件、良すぎません?」


 夜斗はあまりの好条件に、困惑した表情を見せる。それにアサギは笑う。


「アハハハ。そうかもね。でも、特に深い意味はないよ。強いて言えば、あたしが一人暮らしに飽きたってことさ。旦那には先立たれて、息子はまったく帰ってこない。そろそろ刺激が欲しいのさ」


 夜斗は夜那に視線を向ける。しばらく見つめ合っていたが、二人のなかで結論がでたのか、頷きあい、アサギに向き直った。


「決まったかい?」

「本当に、いいんですよね?」

「よくなきゃこんな話、出したりしないよ」

「ありがとうございます。本当に、助かります。でも、家賃は払わせてください。店の手伝いだけでは、割に合いませんので」


 アサギは肩をすくめた。


「律儀な子だねぇ。とりあえず、月二千ギルでいいかい?」

「それでは」

「仕事がない子らに、高い金を請求できるわけがないだろう」


 アサギの正論に、夜斗は黙り込んだ。夜斗の様子を見て、アサギは苦笑しつつ、腰に手を当てた。


「とりあえず、改めて自己紹介しとこうかね。あたしはこの店を一人で切り盛りしてるアサギだよ」

「夜斗といいます。こっちが妹の」

「夜那。よろしく」


 夜那はぺこりと頭を下げた。


「さて、そうと決まれば部屋を掃除したほうがいいだろうね。道具を貸すからテキパキと動きな」

「「はい」」


 掃除道具を貸してもらい、兄妹は部屋へと案内された。


「ここだよ。これが鍵ね」

「ありがとうございます」

「あたしは店があるから戻るけど、なにかあったら遠慮なくおいで。それと勝手にお風呂も使っていいからね。お風呂は一階の一番奥だよ」


 そう言ってアサギは店に戻り、残された兄妹は鍵を使って部屋の中に入る。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る