これからのこと 1

 アサギは皿を片付けながら、二人のこれからを尋ねる。


「口にあったようなら良かったよ。二人は観光でもするのかい?」

「いえ。宿屋か、できれば借家を見つけたいと思っています」

「サラたちと話しているのが少し聞こえたけど、雇われてこの街に来たんだろう? なら、ここでも仕事をするつもりかい?」


 アサギの問いに、夜斗はうなずいた。


「はい。俺たちは戦うことしかできないので。後ほど冒険者ギルドにも顔をだします。冒険者として〝暁〟という名前で妹と活動していますので」

「あんまりその名前、売れてないけどね」

「名乗りだして、そんなたってねぇもんな。あ。で、その、アサギさん、でいいんですよね?」


 夜斗の問いに、少しふくよかなアサギは、腰に手を当てて胸を張る。


「あぁそうだよ。このチーア食堂の女主人、アサギさ。それでなんだい?」

「どこか安い宿屋か、借家を知りませんか?」


 アサギは夜斗の質問に、頭を悩ませながら答えた。


「んー、難しいかもしれないね。最近この街に来る人たちが急増していてね。治安がいい場所のは、もういっぱいだろうねぇ」

「治安がいい場所の? やっぱりこれだけ大きな街ですから、悪い場所もあるんですか?」


 アサギは、悩ましげな表情を浮かべる。


「旧市街地さ。どんなに発展した場所でも、影はできるものだろ?」

「たしかに。真っ白なものなんて、ありえないもんね」

「その旧市街は、そんなに酷い場所なんですか?」


 夜斗は眉間にしわを寄せる。だが、アサギは首を振って否定した。


「いや。手がつけられないほど悪いわけじゃないんだよ。気性の荒い連中も多いが、リーダーがいて、独自のルールもあるみたいでね。仲間やそこに住む子供たちを、傷つけられたら容赦ようしゃはしないらしいけど、普段は大人しいやつらさ」

「……その旧市街に、子供がいるのはなんで?」


 夜那は会話の中でひっかかった部分を、アサギに尋ねた。


「そこは戦後から、身寄りの無い子供たちが捨てられるようになったんだよ。当時のリーダーの命令なのか、ならず者たちが世話をしていてね」

「でも、いまだに捨て子はいなくならない、ということですか」

「まぁね。だけど、王子様が率先して、援助をしているようだよ」


 夜斗は手が白くなるほど強く握り締める。そんな夜斗を見て、夜那が口を開く。


「子供を殺そうとする親。売ろうとする親。暴力を振るう親。育児放棄する親。世の中には、最低な親はたくさんいる。捨てる親も酷いけど、まだ面倒をみてくれる大人がいるとこに捨てるだけ、マシなのかもよ」

「そう、だな」


 夜那の言葉に、夜斗は複雑な表情で頷いた。

 夜斗が納得したところで、夜那はアサギに向き直った。


「とりあえず、捨て子の面倒はみるけど、もともと短気な人たちが住む旧市街には、一般人は近寄らないから空き家があるっていうことだよね?」


 コテッと首を傾げながら問いかける夜那に、アサギはぎょっとした。


「た、たしかにそうだけど、まさか行くつもりかい!?」

「最悪の場合。にぃも、それでいい?」


 夜那は隣にいる夜斗を見上げる。夜斗も妹の考えに同意する。


「あぁ。夜那の見た目を利用すれば、なんとかなんだろ。仮に突っかかってきたら、潰せばいいし」

「……」


 突拍子もない兄妹の考えに、アサギは呆気にとられて言葉を失う。

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