食事
兄妹は料理を前にして、改めて手を合わせた。
「それじゃ、いただきます」
「いただきます」
それぞれ、料理を口にする。
「うまっ」
「おいしい。ゆずでさっぱり」
肉の味がしっかりでており、必要最低限の味付けで、香料くさくない。香辛料が苦手な夜斗にとって、とても好みに合っていた。
夜那のほうも、ゆずの酸味が肉の脂っぽさを緩和しており、普段、食べ物に興味を持たない彼女の箸が進んでいた。
「うまいか?」
「うん。それに」
「ん?」
「優しい味がする」
「そっか」
夜那は細かく切ったハンバーグのかけらを、口に入れた。夜斗は小さく笑い、夜那の口の端についていたソースを、指で拭ってやる。
それから二人は黙々と食べ続けた。
「ごちそうさん」
「ごちそうさま」
「お粗末さま。はい、お嬢ちゃんにはデザートとシーノ。お兄さんには食後のロッソね」
アサギは兄妹が食べ終わったのを見ていたのか、手早く片付け、それぞれデザートと食後の一服の飲み物を渡してやる。
「ありがとう」
「ありがとうございます」
ズズーッと夜斗はロッソを啜る。
「あー、この苦みがたまんねぇな」
夜斗は気が抜けたように、息を吐き出す。
「じじくさ」
「うるさいぞ、夜那」
夜那の暴言に、夜斗が怒る。
「仲がいいねぇ。ところで、二人は
夜斗は手を振りながら、否定する。
「いえ。あの付近の出ではありますが、一時期、倭国にいたことがあって」
「そうだったのかい。でも、倭国にいたなら、お嬢ちゃんは大変だったんじゃないのかい? あそこは、紫は高貴な色という考えがあるからね。あんたの瞳は、綺麗な紫色だし」
夜那はシーノに、ガムシロップとミルクを大量に入れてかき混ぜながら、うなずいた。
「うん。いろんな人、寄ってきた。でも、よくしてくれた。あなたは、不気味に思わないの? 紫は向こうじゃ高貴でも、ここらでは闇に通じる色だよ」
「あたしはそんなの気にしないね。それに紫は魔を払うとも、考えられているんだから」
「そっか」
夜那は小さく笑って、ストローでシーノを、口に含む。
「でもあのときは、ほんと助かったよな。当時、無一文だった俺たちの手当てとかしてくれて。あと、いろいろと足りない知識も与えてくれたし。俺たちの村の閉鎖的で、偏った考えしかもたないクソみたいな連中とは大ちが、いて」
夜斗が暗い表情で蔑んで言うと、夜那に肘鉄をくらった。
「にぃ」
「あ、すみません。変なこと言って」
夜斗が頭を下げると、アサギは首を横に振った。
「いや。謝ることはないよ。まだ成人もしてないのに、二人で旅をしているんだから、わけありなんだろう?」
「まぁ、いろいろと」
夜斗がアサギの言葉に、苦笑いをこぼしている横で、夜那はデザートのプリンをスプーンで掬って、口に入れた。その途端、目を輝かせる。
「うまいか?」
「すっごく!」
夜那の意識の高ぶりから、瞳が一瞬だけ金に変わる。
「カスタード
「お、おう。よかったな」
滅多に見ない夜那のテンションの高さに、夜斗はちょっと引いた。だが夜那は気にすることなく、笑顔で食べ続けている。夜斗には花びらが舞っているように見えた。
「ふぅ。おいしかった。ごちそうさま」
アイスも食べ終え、夜那は満足げに、唇を舐める。アサギは夜那の食べっぷりを見て、
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