チーア食堂の常連
夜那は隣に座る夜斗を見上げた。
「にぃ、ご飯食べたあとは?」
「とりあえず、宿探しだな。それとギルドにも行かねぇと」
「にぃちゃんたちは、外から来たのか?」
声をかけられ、兄妹は窓際の二人のほうに顔を向けた。
男性客二人も、兄妹に体を向けていた。
「外からきたとなると、商隊と一緒に来たのか? 魔物とか盗賊とか大変だったろ」
「なにを言うとるんじゃ。あの二人の腰には武器がついとるじゃろ。どちらかというと、雇われ側じゃ」
「あれ、ほんとだ。アハハハ!!」
「「……」」
テンポよくすすむ会話についていけず、兄妹は黙り込む。
その様子に、見た目以上に古めかしい話し方をする濃紺の髪の男が笑った。
「クククッ。すまんのう。わしはサラという。こっちが」
「キャスだ。よろしくな」
銀髪の男、キャスが八重歯を見せるように笑う。
「はぁ。俺は夜斗。こっちが妹の夜那です」
自己紹介をされたので、困惑気味に夜斗も返した。
「クリスティルパラードに来るのは初めてか?」
「はい。お察しの通り、今回は護衛として雇われて」
「ほう。まだ若いのに、たいしたもんじゃのぅ」
サラの純粋に感心したという気持ちのこもった言葉に、夜斗は困惑顔のまま頬をかく。大抵の大人が、自分たちを見下す者が多いからだ。
「にしても、わざわざ高台にあるこの店まで来るなんてのぉ。誰かに教えてもらったのか?」
「いえ。中央通りの店はどこも混んでいたので」
「だいたいの奴が、あそこで飯をすまそうとするからな。だけどアサギさん、さっきのまん丸い女の人、ってぇ!」
「一言余計だよっ!」
怒声と共に飛んできたお玉が、キャスの頭に直撃した。
「こりん奴じゃのう」
サラはキャスの言葉に呆れ、代わりに兄妹に説明する。
「ここの店主、アサギさんの作るものはどれもうまい。よくここに入り浸っておる暇人なわしらが言うんだから、間違いなしじゃ」
「おいおい。暇人って、おまえと一緒にするなよな」
「暇人なわしに付き合ってここにおるんじゃから、おぬしも暇人じゃろうて」
「言えてらぁ!」
ゲラゲラと笑いあう二人に、夜斗は顔をひきつらせた。
(なんか、やりずれぇ)
「あんたたち! 珍しいからって絡むんじゃないよ! 食べ終わってんなら、金払ってとっとと帰りな!」
できた料理を手に戻ってきたアサギと呼ばれた女性が、キャスとサラに怒鳴る。
「おぉ、こわ」
「おっかない、おっかない。それじゃあ、また来るでのぅ」
二人は怯えたフリをしながら、代金をおいて帰って行った。
「まったく。騒がしくしてごめんね。お待ちどうさま」
アサギは夜斗の前にステーキセット。夜那の前にハンバーグセットを置いた。
ジュワーッと肉の焼ける音と、香ばしい胡椒の香り。よりいっそう、空腹を促すにおいに、顔を綻ばせる。
「うまそう。夜那もそう思うだろ?」
「うん」
「ゆっくりお食べ」
そう言って、アサギはキャスとサラのテーブルを片づけに行った。
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