第三章 チーア食堂

チーア食堂

 時計塔広場を後にした夜斗と夜那は、高台へと続く道を歩いていた。


「イザナさんの分と合わせて二万一五百ギル。それ以外に、前の仕事分のがあるから……安宿なら、しばらく平気か?」

「食事別、それこそ寝るだけの宿で一人三千から四千ギル。外での食事も一日二食にして、千ギル程度におさえればなんとか。でも、宿があればの話だよ」

「そうなんだよな」


 二人は坂を登り終えた。そこは街を一望できるような開けた場所になっていた。見上げれば城。目線を下ろせば、広い港が目に入る。


「こりゃあ、いい景色だ」


 海風に目を細めながら、夜斗が呟く。


「〈夢の都〉と言いたくなるのも、なんとなくわかるな」


 キラキラと輝く海に、景観が保たれた家々。初めて見る光景に、夜斗はここクリスティルパラードが<夢の都>と呼ばれる理由を理解する。だが、兄の言葉を夜那は鼻で笑った。


「夢なんて、所詮は幻。いつかは醒める幻想でしかないよ」

「……夜那。おまえ、現実主義者リアリストすぎる」


 夜那の発言に、夜斗は思わず落胆する。


「あ、にぃ。あそこにお店があるよ」


 夜斗の様子を気にすることなく、夜那は見つけた店に近寄った。


 オレンジの瓦屋根に白い外壁が特徴の二階建て。軒先には『チーア食堂』という看板が下げられ、ドアにはopenの文字。


「お、飯屋か。腹も限界に近いし、ここにするか」

「そうだね」


 ドアを開けて、二人は店の中に入った。

 

 ちりんとドアに提げられている鈴が軽やかな音をたてて、来客を知らせる。

 店内には昼時を過ぎているせいか、窓際の二人用の席に、濃紺の髪の男性と銀髪の男性が、向かい合って座っているだけで、閑散としていた。


 鈴の音を聞いて、奥から茶髪で壮年の女性が出てくる。


「いらっしゃい。おや、見かけない子たちだね。とりあえず、ここにお座りよ」


 カウンター席をすすめられ、兄妹は示された席についた。


「メニューはこれね。決まったら呼んでちょうだい」

「わかりました」


 女性はメニュー表を渡して、離れた。兄妹はそれを開く。


「夜那はなにを食べる?」

「プリンとアイスの盛り合わせ」

「それはデザート。ほら、なにがいい?」


 夜那は仕方ないというように、メニューを眺める。


「じゃあ、これ」

「わかった。すみません。注文お願いします」

「はいよ」


 呼ばれた女性が戻ってくる。


「なににするんだい?」

「ステーキセットとハンバーグセット。夜那、ソースは?」

「ゆず」

「あとデザートにプリンとアイスの盛り合わせを。それとハンバーグセットの方、量少なめってできますか?」


 夜斗の問いかけに、女性は頷いた。


「もちろん。少なくする場合は五十ギル引きだよ。大盛りはプラス五十ギル」

「ならステーキセットは大盛りで」


 夜斗は即答した。それに彼女は笑う。


「あいよ。あと、食後にサービスで、ロッソコーヒーシーノ紅茶が選べるよ」

「なら俺はアイスロッソで。夜那は?」

「私はシーノ。冷たいのがいい」

「はい。それじゃあ、作ってくるから待っててね」


 注文を聞いた女性は、料理を作るために奥へ引っ込んだ。

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