夜那、魔剣と契約する 3

 目を閉じて考え込む夜那に、魔剣が語りかけた。


『娘、我に付ける名は決まったか?』

「あぁ。だけどかわりに、私の真名まなをあなたに教えよう」

『よいのか? いつか、我がおぬしに牙をむくやもしれんぞ? 真名を教えるというのは、それほど危険なことだ』


 真名とは、生まれたときに付けられた名前のこと。つまり「夜那」というのが彼女の真名となる。そして従者が主の真名を知ることができれば、従者は主に牙を向くことができるようになる。

 よって人ならざるモノと契約をする際、契約主は絶対に真名を教えることはしない。


「かまわないよ。長く生きる魔剣ならば、私を殺してくれるかもしれないからね」

『ふむ。おぬしは死を望んでいるのか』

「そう。ずっとね。ずっと私は死にたくてたまらないの。さぁ、契約に入ろう」


 夜那は魔剣の剣腹に額をくっつける。


「紫は闇を表すもの。闇をまといし汝の銘は紫闇しあん。我が名は夜那。汝の新たな使い手となる者なり」

『紫闇。良い銘だ。我が銘は紫闇。そなた、夜那を主とする。我を存分に振るうが良かろう』

「感謝するよ。これからよろしくね」


 ボワァと一際大きく闇のオーラが燃えるように広がると、夜那を包み込んだ。やがてオーラは少しずつ小さくなり、剣を包む程度に収まった。


 夜那は掲げていた腕を下ろし、夜斗に視線を向ける。夜那の瞳は全てが終わったことで、普段の紫に落ち着いていた。

 夜那からの目線を受けた夜斗は、彼女に近づく。


「無事、契約できたみたいだな」

「うん。魔剣ってみんな意志を持ってるのかな? こんな風に、契約することになるとは思わなかった」


 夜那が闇の魔剣もとい、紫闇に目を落とすと、紫闇のオーラが答えるように揺れた。


『魔剣全てが意志を持つわけではない。力が強きモノ、作られた時代が古きモノは、魂を得て自我を持ち、主と対話が可能となる』

「なんか、倭国でそんな話聞いたことある。つくもがみって言うんだっけ? 長く大切にされた物には命が宿るっていう」


 目に見えぬなにかと会話をしている夜那に、夜斗は首を傾げた。


「夜那。誰と話してんだ?」

「この剣と。銘が無いっていうから、紫闇ってつけた」

「前の持ち主につけられなかったのか?」

『契約は交わしておらぬ。我が人と言ノ葉を交わしたのは、実に五百年ぶりよ。封印されていたり、人が触れてもすぐに呑まれてしまうのでな。それに同調せねば、言ノ葉は交わせぬ』


 紫闇の声が聞こえない夜斗のために、夜那が訳して伝える。


「五百年ね。俺たち人間からしたら途方もない年数だな。というか俺の言葉、伝わるのか」

「見聞きはできるみたいだよ。それより、紫闇。私と同調できたのは、私が<忌み子>だから?」

『<忌み子>はわからぬが、そなたは<魔に魅入られし者デビルエンチャンター>であろう? 闇に近し者、魔に近し者を、そう呼ぶのだ』

「へぇ。じゃあ、そうなんだろうね」


 ふと視界にリチャードとファルが自分たちの方へ向かってくるのが映り、夜那は目を細めた。


「にぃ、あいつらが来る」

「あ?」


 夜那に言われて、夜斗は振り返る。

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