夜那、魔剣と契約する 2

「おいおい。いくらなんでも、まずいだろっ」


 あまりの異様さに、リチャードが動く。だが、


「動かないでいただけますか?」


 夜斗がリチャードの行く手を阻むように、立ちふさがった。


「今、あれに近づかないでもらいたい」

「なに言ってんだ! 止めないとあの子、さっきの人みたいに」

「なりませんよ」


 夜斗はリチャードの言葉を遮った。


「俺は魔剣について詳しいわけではありませんが、夜那は今、あの剣と契約を交わそうとしている。邪魔をしないでください」

「契約って、そんなことできるのか? さっきの男みたいに暴れたり、狂ったりしないのか?」


 リチャードはまくし立てる。あまりのうるささに、夜斗は舌打ちした。


「うるせぇな。あの剣はいらねぇって、あんたが言ったんだろうが。だったら、黙って見てろ」

「あ、はい。すみません」


 夜斗の迫力におされ、リチャードは思わず敬語になった。


「殿下。あなたはまったく」


 男を避難させて戻ってきたファルが、二人のやりとりを聞いて、呆れた声を出す。


「だって、ファル」

「全面的に、あなたがしつこいからです」

「む。相変わらず、俺に辛辣しんらつ


 リチャードはファルの言葉にむくれながらも、おとなしく黙った。

 そんな二人を横目に、夜斗は夜那の様子を伺う。夜那は周りに目もくれず、剣に声をかけ続けていた。


「汝、我が声に応えよ。我に下れ」


 夜那が魔剣に語りかけるたびに、オーラが激しく揺れる。だが夜那は臆することなく、剣が応えるのを待つ。


『汝、我が力を欲する者か』


 頭の中に直接語りかけられ、夜那はピクリと反応した。しかし近くに人はおらず、声の主が魔剣とわかると、冷静に言葉を返した。


「そう。普通の人間では、あなたをうまく使えない。でも私なら、使いこなせる」

『……陽のもとで生まれながら、陰の血を持つ。なかなか興味深い娘だ。たしかに、そなたのような者ならば、我が気に当てられることもなかろう』

「ならば、あなたの銘を私に」

『銘などない。そなたがつけるがいい。汝と、主従契約を交わそうぞ』


 魔剣の言葉に、夜那はいぶかしげな表情を浮かべる。

 魔剣の言う主従契約とは、契約者が相手に名前をつけることにより、言霊で縛るもの。そのため、名前をつけられたモノは、何があってもどんなことがあっても、主を傷つけることができない絶対の契約。


「いいの?」

『かまわぬ。我は所詮しょせんは剣。使い手も自由に選べぬ。それに我の闇の力は強い。ゆえに多くの者を狂わせ、罪無き者たちを斬ってきた。そなたならば、我の闇にとらわれることはあるまい。銘をつけよ』

「……」


 夜那は魔剣の思いを聞き、目を閉じて考え込む。


(この意思のある魔剣が絶対の味方になれば、私のできることも増えそう。……いや。私の一番の願いを叶えるには、主従契約では駄目だ)


 夜那は目を開けた。

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