夜那VSブラックドッグ 2

 ブラックドッグは地に足をつけたとほぼ同時に、再び夜那に飛びかかろうと足に力を込めた。


「させねぇよ! シャイニング・ショット!」


 ガウンッガウンッ


 夜斗の魔晶銃が、光の弾丸を放つ。


「グルルルル」


 魔物の視線が、夜那から夜斗へと移る。


「はぁぁっ!!」


 動きが止まった一瞬の隙を逃さず、夜那は斬り込む。

 剣は正確に首を捕らえた。しかし、


(かたいっ)


 夜那の腕に、まるで岩を打ったような、しびれた感覚が走る。

 街の人々の恐怖心を多く吸収したためか、本来のブラックドッグよりも、夜那が闘っているブラックドッグは強固な体つきになっており、ロングソードは首をはねるどころか、途中で止まってしまった。


「夜那っ!」


 剣が動かなくなったのを見て、夜斗が焦った声で夜那の名を叫ぶ。


「問題ない。ふっ!」


 バキンッ


 夜那は半ば無理やり剣を折ることで、魔物と距離をとった。


「思ってたより、めんどくさいな」


 夜那は左手を空へと向ける。


「遥かそらより降り注ぐは聖なる雷。闇より生れし悪しきモノを貫け。てんいかずち!」


 雲ひとつない上空から、いくつもの雷がブラッグドックに落ちる。


「グゥゥゥ、ガァァァ!!」


 魔物はよろめくも、しっかりとした足取りで、力強く吠えた。


「これでも死なないの?」


 あまりのしぶとさに、夜那はうんざりとした声を出す。


「夜那! 手を貸すか?」

「まだいい」


 夜那は折れた剣を、ブラックドッグに向ける。

 周囲は固唾を飲んで、夜那と魔物の動きを見守っている。


(相手は闇だから、光魔法のがいいけど、素早すぎる。いっそのこと、この折れた剣を、奴の体に突き刺して動きを止めようか)

「グルルルゥゥゥ」


 魔物が低く唸る。夜那は次にする行動を決め、不敵に笑った。


「おいでよ。遊んであげる」

「ガルァァァァ!」


 夜那の挑発に、ブラックドッグは走り出す。だが夜那はあえて、その場を動かなかった。

 妹の意図に気付いた夜斗が、顔色を変える。


「バカ! 夜那、やめろ!」


 夜斗が叫ぶが、それでも夜那は動かない。

 ブラックドッグが夜那へと飛びかかる。そんな魔物に、夜那は左腕を差し出し、わざと噛ませた。


「おい! マジかよ!?」


 夜那の行動に、リチャードも慌てる。しかし、腕を噛まれた本人である夜那は、フフッ小さく笑う。


「おいしい? ならこれも食らいなよ!」


 夜那は折れた剣を、魔物の顔面に突き刺した。


「キャイン!」


 高い悲鳴を上げて、ブラックドッグが夜那の左腕を離して、逃げようとする。だが夜那は距離を取られる前に、剣の柄から放した右手でブラックドッグを掴むと、地面へと叩きつけた。

 そして、血だらけの左手を魔物に向ける。


「遊びはおしまい。聖なる光でちりとかせ。光烈塵こうれつじん!」

「グガァァァァ…………」


 ゼロ距離で放たれた光魔法に、ブラックドッグは悲鳴をあげると、小さな光の玉となり、霧散していった。

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