夜那VSブラックドッグ 1

 不定形なオーラは、大人の男一人が乗れるほどの大きな狼の姿となった。


「グルルゥゥガアァァ!!」

「ま、魔物だー!」

「逃げろー!!」


 魔物の雄叫びで、けが人を連れていたがために、逃げ遅れていた人々が悲鳴をあげる。それにより、恐怖が伝染し、再びパニックに陥る。


「ブラックドッグかな」

「にしては、ずいぶんでかくないか?」

「ね。でも、同じようなものだよ」


 兄妹が現れた狼の魔物、ブラックドッグを分析している横で、リチャードは盛大に舌打ちをした。


「マジで出やがった! なんで俺の白光騎士団は来ない!」

「殿下もお早く!」


 しかしリチャードは動かない。それどころか、兄妹に視線を向けた。


「……なぁ、おまえら」

「殿下!」


 ファルが咎めるような声で、リチャードを呼ぶ。だが、リチャードはそれを無視して、夜斗と夜那に近づく。


「なんですか? できればあなた方も逃げてくださるほうが、ありがたいのですが」

「さっき、仕事がどうとか言ってただろ? 俺が依頼するから、あの魔物を倒してくれるか?」

「……夜那」


 夜斗は夜那を呼び、伺いをたてる。


「にぃに任せる」


 だが結局、丸投げされてしまい、夜斗は小さくため息をついた。


(まぁ、金が貰えるのなら、断る理由はねぇか。どっちみち、倒すつもりだったし)


 夜斗はリチャードに視線を戻した。


「わかりました。お引き受けいたしましょう。あの魔物くらいでしたら小型ですね。一体だけですので、八千ギルになります」


 夜斗の提示額のあまりの安さに、リチャードは目を瞬いた。


「それ、安すぎないか? あの人の暴走も止めてくれたんだ。五万出す」

「五万は多すぎます。一万。これ以上は、譲れません」


 夜斗は受け取らないと、牽制けんせいする。リチャードは苦い顔をしながら、うなずいた。


「まぁ、そっちがそこまで言うなら……。頼めるか?」

「冒険者〝暁〟、依頼を受理いたしました。夜那」

「ん」


 夜那は返事をして、闇の魔剣が産み出した魔物、ブラックドッグに向けてゆっくりと歩き出す。歩くにつれ、気分が高揚しだしたのか、瞳の色が紫から金へと変わる。


「援護する。魔法は直接攻撃のならいいが、範囲魔法は危ねぇから、あんまし使うなよ」

「わかってるよ」


 夜斗の言葉に了承し、夜那は走り出した。


「ガアァァァ!!」


 ブラックドッグは威嚇の声を上げて、夜那に飛びかかる。

 夜那と魔物が交差する瞬間、夜那は剣を鞘から抜き放った。だが、


「っ!? 思ったより、速いっ」


 ブラックドックは空中で身をひるがえし、夜那の攻撃を避けると、そのまま鋭い爪で彼女を襲った。夜那も、すぐさま剣で防ぐ。


 ピキッ


 爪の攻撃は防いだものの、夜那の刀身に亀裂きれつが走る。

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