時計塔広場の騒ぎ 3

 夜那はじっと、闇の魔剣を見つめる。


「闇属性という特性を考えると、剣と人間が離れて〝はい終わり〟とはいかないと思う」

「はぁぁ。はるばる王都に来たってのに、なんでこんなすぐ面倒事に」

「これも必然なんだよ」

「ガアァァァ!!」


 嘆く夜斗と、すべてを受け入れた表情の夜那のもとに、男は獣のような雄叫びを上げながら、向かってきた。


「おい! 逃げろ!」


 リチャードが焦った声を上げる。

 夜斗は男の後ろで倒れているリチャードに、鼻で笑う。


「逃げろだと? 馬鹿なこと言ってんじゃねぇよ」


 夜斗は光の魔晶石を銃のグリップにはめ込む。


「にぃ、こんな大勢の前で人を殺すのは」

「わかってる。大丈夫だ」


 夜那の言葉を遮り、夜斗は魔剣に狙いを定める。


「シャイニング・ショット!」


 弾丸は彗星すいせいのように光の尾を引いて、刀身に着弾すると、剣は勢いよく男の手から弾かれ、地面にカラカラと音を立てて転がる。

 男は、力尽きたようにその場に崩れ落ちた。


「さすがだね」

「俺が外すわけねぇだろ」


 夜那の称賛に、夜斗は笑って答えた。

 倒れた男のもとに、ファルとリチャードが近寄る。


「気を失っているだけのようです。目立った外傷もありません」

「そうか。とりあえず、これで解決だな」

「まだだよ」

「へ?」


 リチャードは夜那を見る。だが夜那は、己の剣の柄に手をかけ、いつでも抜けるように構えながら、鋭い目を魔剣に向けていた。


「夜那。おまえには、なにがえる?」


 夜斗は夜那の隣に立ち、魔晶銃を魔剣に向けたまま、夜斗は自分とは違う景色モノが視えている妹に、静かな声で問いかけた。


「闇の魔力が周囲の負の感情と同調し始めてる。紫のオーラが、まるでなにかの形を取ろうとしてるみたい」

「それは、魔物を生み出すってことか?」

「その可能性が高い」

「ま、待ってください!」


 淡々と話を進める兄妹に、ファルが割って入った。


「私には、彼女の言っていることが、いまいち理解し難いのですが。その魔物が生み出されるというのは、どういうことです?」

「……私も前例を知ってるわけじゃないから、はっきりとは言えない。けど、闇の魔力の性質によるものだと思う。どういうものかは、自分で調べて」


 夜那は冷たく、ファルを突き放した。


「ちびっ子」

「ちび?」


 すると今度はリチャードに「ちび」と言われ、夜那はリチャードに不快な視線を向ける。しかし、リチャードは真剣な表情で、夜那を見つめていた。


「あの剣が魔物を生み出す前に、折ることはできないのか?」

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