時計塔広場

 その時、一匹の鳥が結界に弾かれているのが見えた。


「あれ? 鳥が……」


 夜斗の呟きに、夜那は視線を向けた。そこにはどうにかして、街に入ろうとする鳥がいた。


「遠すぎて種類まで分からないけど、弾かれてるってことは、あれは鳥型の魔物だろうね。ほら、あっちの鳥は入れてる」


 夜那の指が示す先にいた二匹の鳥は、外から街の中にスゥと飛んで来た。


「小さな町の結界だと、力が強い魔物は入ってきちまうことがある。……地方とえらい違いだな」


 夜斗は冷めた視線を、いつまでも空に向けていた。そんな彼の手を、夜那は再度引っ張る。


「にぃ、人混み、疲れた」

「あ、あぁ。わかった。ほかも見てみるか。メインストリート以外にも、店はあるだろうし」


 深くため息をつく夜那の頭を、夜斗は苦笑しながら撫でてやる。


 二人はいつしか、時計塔が立つ中央広場に出ていた。時計塔には、龍が虹色の巨大な結界魔晶石を抱くような彫刻が彫られている。日の光に反射して、魔晶石はキラキラと輝いていた。


 そのとき、ちょうど昼時を知らせる鐘の音が、広場に響き渡る。人々は足を止めて、うっとりと聴き入っていた。

 その様子を、夜斗は不思議そうに見る。


「よっぽど、この街の人間にとって、思い入れがある時計塔なんだな」

「メロディーがあるわけでもないのに、どこにうっとりする要素あるの? ただの鐘の音じゃん」

「夜那。せめてそれはもっと小声で」

「なんだおまえら。この街は初めてか?」


 声をかけられ、兄妹は振り向く。


 そこには白で特に模様もない質素な服に身を包んだ青年がいた。金髪碧眼の彼は、人付き合いの良さそうな笑みを浮かべている。そんな相手に、夜斗は品定めするかのように、目を細めた。


(一見、どこにでもあるような服だが、見る人間が見れば、一発で上質なものだとわかる。となると身分が高いやつ。だが、護衛の姿がねぇな)


 夜斗の視線に気がつかないのか、青年は時計塔を見上げた。


「この時計塔はな、復興の象徴なんだよ。この街は一度、戦争で滅んだっていえるくらいの被害を受けた。だが、人々は諦めずに立ち上がり、今の姿になった。奇跡だとか言う人もいるが、俺はこの街を心から愛してくれている、大切に思ってくれている人たちがいたからこそ、為せたことだと思ってる」

「……多くの人々の思いが詰まっているんですね」


 探るような視線から一変して、にこやかだが、どこか皮肉を含んだ笑みを浮かべる夜斗。青年は夜斗の笑みの意味に気がつかないのか、ニッと歯を見せる。


「人の思いってすげぇよな。あ、今更だけど、俺、リチャードっていうんだ。おまえら兄妹?」


 リチャードと名乗った青年は、夜斗と夜那を見比べて首をかしげた。


「俺たちは「きゃああ!!」

「わあぁぁ! やめろーー!!」


 突如、広場の一角で悲鳴が上がった。

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