第二章 王都クリスティルパラード

王都散策

 陸海の物流が盛んな王都クリスティルパラード。街全体を囲む城壁は高く、門で検閲している警備兵の顔も厳しい。だが、一歩街の中へと足を踏み入れば、そこには華やかな街並みが並んでいる。


 メインストリートには飲食店から食材屋、服飾店に道具屋など、さまざまな店が立ち並び、所狭しに人が溢れかえっている。そして、街の中心部には復興の象徴となっている時計塔が立つ広場があり、その先に高くそびえる城がある。


「ご立派なお城だこって」


 夜斗は王城を見上げ、忌々しげに呟く。そんな兄の言葉に、夜那は肩をすくめた。


「にぃは、本当に貴族が嫌いだね」

「そりゃあ、俺の元飼い主は、貴族のクソ豚野郎だったからな。剣闘士をしていたあの日々は、地獄みてぇなもんだった 」


 夜斗は怒りを抑え込むかのように、片手で顔を覆い、深くため息をついた。

 じっと夜斗を見つめていた夜那は、そんな兄の手を引いて、自分に視線を向けさせる。


「深く考えるから、憎いって思うんだよ。貴族は、確かにむかつくことはあるけど、いいカモじゃん」

「カモって、おまえなぁ」


 夜那の正直な答えに、夜斗は思わず乾いた笑いをこぼした。


「気持ち切り替えてよ。やることは、いっぱいあるんだから」

「そうだな」


 二人は食事のとれる店を探すため、メインストリートを歩くことにした。


「安いよ、安いよ! 今日、入荷したばかりの新鮮な野菜に果物! そろってるよ!」

「そこのお姉さん! この赤い布を使って、服を仕立てないかい? きれいなお姉さんにぴったりな服になること、間違いなしだよ!」


 あちこちで呼び込みの声が響きわたり、夜斗は興味津々で見回す。しかし夜那は、夜斗に手を引かれるまま、興味なさそうに歩いていた。


「すげぇ活気があるな」

「うるさいくらい。耳障みみざわり」

「しょうがねぇだろ。そこは」


 ボソッと毒づく夜那の頭を、夜斗はポンポンと叩く。


「まぁ、さすが王都なだけあって、結界魔晶石けっかいましょうせきの効力はかなり強力だね」


 夜那は、空を見上げる。夜斗も夜那にならって、空を見た。


 結界魔晶石はその名の通り、結界を張るためのもの。拳大くらいのものであれば、自分の周囲に結界を張り、攻撃を防ぐことができる。そして結界魔晶石は大きければ大きいほど、結界の強度が増す。よって、人一人で抱えられなさそうなほど巨大なものは、街を魔物から守るために設置されているのだ。


「言われてみれば、ぼんやりとだが、虹色の膜が見えるな」

「だからこそ、人も集まるんだろうね」


 夜斗は魔法は使えないものの、魔力の流れや色を見ることができる。本来であれば無色の補助魔法だが、効果が強いものは虹色の光を発する。それだけ、王都に張られている結界は強いということだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る