王都到着

 前方に、町の入り口である大きな石造りの門が見えてくる。門の上には龍の石像がつけられていた。


「あの龍の石像は?」


 夜斗が質問をすると、イザナが丁寧に説明をしてくれた。


「あれは、この国のシンボルであり、守護神であられる龍神様を象った石像です。

 昔、戦争で周辺諸国から同時に攻められた時、街の裏手にある、帰らずの森から巨大な龍が現れて、兵士たちと一緒に戦い、国と王都を守って下さったそうです」

「それで、その龍に対する感謝の思いを忘れないために、石像を作ったってわけか」

「帰らずの森ってなんですか?」


 興味深そうに説明を聞いて頷く夜斗の隣で、今度は夜那が質問する。


「その名前の通り、一度入ったら帰って来られないと言われている森です。とても深い森で、恐ろしい人食いの魔物などがたくさんいるとか。それに、今でも森の奥には龍神様がいらっしゃって、財宝を守っているとも言われているんです」

「ベタな話ですね。入ったら帰って来られないとか、財宝があるとか」


 よくある話だと言う夜斗だが、イザナは少しだけ、顔を曇らせる。


「しかし、その財宝の話を信じて森に入り、帰ってこない者たちがたくさんいるんですよ。今でも、行方不明者が後を絶たなくて」

「へぇ」


 そうこうしているうちに、石造りの門をくぐり王都クリスティルパラードに入った。

 街に入ったところで、兄妹の仕事は終わりのため、イザナと別れることにする。


「俺たちの仕事はここまでです」

「はい。本当に、ありがとうございました。お二人のおかげで、無事にたどり着けました。たしか、隣町だと一万一千ギルでしたよね? 盗賊と魔物退治の追加分を合わせるとおいくらになりますか?」


 イザナが現金の入った袋を手に持ちながら尋ねると、夜斗は手をひらひらと振った。


「一万ギルだけでいいですよ」

「え!?」


 イザナは夜斗の顔を凝視する。


「しかし、盗賊や魔物も退治してくれたわけですし」

「本来、護衛は横を歩いてするものです。でも、俺らは荷台に乗せてもらっていました。それに」

「合計すると、結構な金額になる。私たち、今は余裕あるから」


 夜斗の言葉を引き継いで、夜那も説明する。


「はぁ。でも」


 それでも納得できないと言った表情のイザナに、夜斗が提案する。


「じゃあ、イザナさんのお仲間に、俺らのこと宣伝しといてください。しばらく王都を拠点に仕事をするつもりなんで」

「フリーの冒険者〝暁〟。魔物退治に護衛、用心棒まで。なんでも請け負う」

「といった感じで。冒険者ギルドにも顔は出すんで、そこで指名をしてください」


 二人の微笑みに、イザナはようやく納得したように笑みを見せた。


「わかりました。では、今回の依頼料です。本当にありがとうございました」


 イザナは何度も礼を述べて、荷物を届けるために去っていった。


「んじゃ、俺たちはまず腹ごしらえだな。それから拠点となる宿か家を探そう」

「甘いの。パフェ」

「はいはい」


 夜斗は夜那の手を取り、街の中へと足を進めた。

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