王都へ向けて
夜那は夜斗の隣に座りなおす。
「それとイザナさんは、私たちの二つ名については知らないみたい。にぃが〈剣銃の死神〉だと言っても、ピンときてなかったし。だから心配してた」
「盗賊共は、暁は知らなくても、二つ名のほうは知ってたな。なんにせよ、戦うことを生業としてないと、知らないか。だが」
夜斗は不服そうに、口をとがらせる。
「盗みを働く前提で雇われたんなら、不満だな。こっちは、これから王都で仕事をしようって考えてんのによ。信頼問題に関わるし、金にも困ってねぇっての」
夜斗の態度に、夜那は笑った。
「前の依頼人が気前よく、倍の額をくれたからね」
「小さな妹が一緒では大変だろうって言ってな」
夜那は肩をすくめた。そしてゴロリと横になると、夜斗の膝に頭を乗せる。
「そういえばさ、今回の行き先であるシャンデルト王国の王都ってどんなとこなの? あまり知らない」
「小精霊たちに聞けば、教えてくれるんじゃないのか?」
「そうだけどさ、彼らはお気に入りの人間以外には、大雑把なことしか教えてくれないよ。具体的に頼めば、教えてくれないこともないけど」
夜那の情報源である小精霊は、自然を好む。街の中にもいるが、自由な彼らは人間社会に関心がきわめて薄い。
擦りついてくる夜那に、夜斗は小さく笑みをこぼす。そして優しく髪を梳いてやりながら、説明を始めた。
「シャンデルト王国王都クリスティルパラードは、街の一番高い場所に王城がある。また海に面しているから貿易船もたくさんあって、大きな二つの街道もあるから、品物の流通も良いようで、かなり栄えた街だな。
それと五十年くらい前の戦争から奇跡的な復興を遂げた街でもあって、この街が一番美しいと言われていた時代の景観に、わざわざ戻したらしい。それで夢のような幸せがあふれる街ってところから〈夢の都〉とも呼ばれているんだと」
「〈夢の都〉? 美化しすぎでしょ」
夜那がイザナに聞かれないように、呆れた声をだす。
「俺たちには関係ねぇことだからな。さっきも言ったように、しばらくは王都に滞在する予定だ。適当に、宿なり借家なりを見つけて暮らそう」
「仕事はどうやって?」
「とりあえずギルドに、俺たちが滞在していることを伝えないといけないからな。そこで仕事を流してもらうか、イザナさんに宣伝してもらうとか……。まぁ、なんとかなんだろ」
「にぃに任せるよ。私はパフェが食べたい」
「好きだな、甘いの。着いたらまずは食事だな」
「うん」
「お二方、もうまもなくで着きますよ。ほら、街の入り口である門が見えてきました」
イザナに言われて、二人は荷台から顔を出す。
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