戦闘終了

 マグリースは消えたが、二人は警戒をおこたらない。

 夜斗は夜那に視線を送り、夜那は土の小精霊ティエラに呼びかけた。


「ティエラ、索敵さくてきをお願い。周囲に敵はいる?」

『えっとね、みんなは、いないっていってるよ』


 夜那の前に黄色の光の玉が浮かび、情報を伝える。土属性のティエラは、大地と木々の声を聞くことができ、彼らの声を代弁してくれる。


「ありがとう。にぃ、敵はいないって」

「そうか。お疲れさん」

「にぃもね」


 夜那は指を振って荷馬車に張っていた結界を解く。瞳も、金から紫へと戻った。

 夜斗は武器をしまい夜那のそばに寄ると、おもむろに夜那の腕を掴んだ。


「え? なに?」

「けが、したのか?」


 夜斗の視線は、夜那の切れた服に向けられていた。それに対し、夜那は肩をすくめる。


「もうとっくに治ってるよ。私の再生力は、にぃもよく知ってるでしょ」


 そう言って、夜那はするりと夜斗の腕から逃れ、荷馬車に近寄る。夜斗はため息をついて、それに続いた。


「イザナさん、魔物は始末したよ。もう出てきても平気」

「ほ、本当ですか?」

「うん。夜斗も戻ってきた」


 イザナは恐る恐る顔を出す。先ほどまでいた魔物がいないのと、夜斗の姿を見て、イザナの顔の強ばりが解けていく。


「夜斗さん、ご無事でよかった」

「ご心配おかけしました。予想通り、この先に盗賊たちはいましたが、もう逃げたんで進めますよ」

「ありがとうございます!」

「仕事ですから」


 イザナは御者台に戻り、二人も荷台へと戻った。そして再び、荷馬車は動き出す。


「にしても、街道に魔物が出るとはな」


 夜斗が座ると、夜那は甘えるように兄にすり寄りながら答えた。


「本来なら、人通りが多い街道は出にくいからね。だから代わりに盗賊が出る。でも今は、魔物が凶暴化する時期だから、街道にも出現。たぶん、さっきの魔物は、縄張り争いに負けたんじゃないかな」

「ならなんでイザナさんは、危険とわかっていながら、商人ギルドの仲間と行こうとしなかったんだ?」


 夜斗はイザナに聞こえないように、小声で夜那に尋ねる。

 夜那は無言で、荷物の薄布をめくった。豪華な生地の布たちを見て、夜斗は納得を示す。


「……なるほど。よっぽど信頼できる仲間じゃねぇと、一緒には行けないわな」

「でも、盗賊と魔物のことがあった。だから子供で二人だけとはいえ、旅をしているのだから大丈夫だろうと思って、私たちに依頼をした」

「二人なら持っていかれるにしても、微々びびたるもんだから、痛手にならねぇってことか」

「たぶんね」


 夜那は薄布を戻した。

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