夜那VS魔物マグリース

 夜那は上空から、カマキリ型の魔物に攻撃をしかける。


「キジャア!」


 だが、右前足の刃で弾かれ、逆に左前足の刃が夜那の目の前に迫る。


「チッ」


 夜那は空中であったため、よけることは難しいと舌打ちをこぼし、とっさに左腕を盾にした。


 魔物の刃が、夜那の腕の肉を深くえぐりながら、夜那を叩き落とす。

 だが、夜那は地面に激突する前に、身体をひねって着地し、すぐさまバックステップで、魔物から距離を取った。

 夜那の斬られた腕からは大量の血が滴るも、彼女は表情を変えない。それどころか傷は、瞬く間に塞がっていった。


 かつて夜那は生贄として捧げられた魔物キベリアスによって、驚異的な再生力を持つ身体へと変化させられた。そのため、夜那は腕が吹き飛ぼうが、足が千切られようがすぐに元に戻る。だが、その弊害へいがいとして、夜那は痛覚に鈍いところがあり、捨て身の戦法を取ることが多い。


 夜那はため息をついた。


「どうにか、荷馬車と距離をとりたいんだけどなぁ。気が散るし」


 夜那は背後の荷馬車が気になり、集中できない。もともと夜那は守りながらの戦法を、あまり得意としていなかった。


「やつの弱点は……」

『俺様だぜ』


 夜那の声に応えたのは、火の小精霊のフエゴだった。


『あいつはマグリース。弱点属性は火。腹部は柔らかいが、外殻はかなり強硬。足元に入り込むにしても、前足の攻撃が素早く邪魔だから、気をつけな』

「そう。助言、ありがとう」


 夜那はフエゴに礼を言った。


「ジャアァ!!」

「ヒィィ!! お、お助けください! ご加護を! 龍神様のご加護を!!」


 魔物マグリースの鳴き声に、荷台で丸まって怯えているイザナは、半ば叫びながら祈りを捧げていた。


「へぇ。シャンデルト王国は、龍を神として崇めてるんだ」


 イザナの叫びに、夜那は同情するどころか、場違いな興味を示した。


「まぁ、あがめる神がなんであれ、どんなに祈ったって、人間の言葉に耳を貸してはくれない。どんなに願っても、決して救ってはくれない。いや、そもそも神なんてそんな曖昧あいまいなものは、存在しないのかも」


 夜那は暗い笑みを浮かべるが、すぐに意識をマグリースに切り替える。


「ジャア! キジャア!!」

「いい加減、うるさいよ。美しく舞い踊れ。蛍火ほたるび!」


 夜那は魔物に手の平を向け、炎魔法を放つ。


「ガァ!」


 複数の火の弾をくらい、魔物は大きくのけぞった。夜那はそのまま懐に入り込む。


「真下からの攻撃は、避けられないでしょっ」

「ジャアァ!」


 ボトッと音を立てて、前足が地面に落ちる。マグリースは痛みで暴れた。

 夜那はバックステップで距離を取ると、手の平を魔物に向ける。


「猛る炎よ、我が手に集え。彼のモノを弾き飛ばせ。石火砲弾せっかほうだん!」


「ギャアァァァ!!」


 続けて放たれた爆発魔法に、マグリースは悲鳴を上げて吹き飛ぶ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る