戦闘準備 2

 この世界は、実力、知力、ともに優れた者に、強き者の証として二つ名が与えられる。それが身分を証明する冒険者メダルに記載されるのだ。


 この世界は、二十歳で成人とされている。夜斗と夜那は現在十八歳だが、二年前に二つ名を手にいれている。夜斗は〈剣銃けんじゅう死神しにがみ〉。夜那は〈紫金しがね魔剣士まけんし〉だ。


 二人の二つ名は、一年前に起きた当時滞在していた国、ミリテス皇国の内乱に巻き込まれ、傭兵として参戦した際につけられた。


 夜斗は剣と銃を巧みに操り、五十人編成の部隊を単独で潰した。さらに指揮も的確だったことから、二つ名を与えられたのだ。


 夜那は、桁違いな威力の魔法と我流の剣術で敵を翻弄ほんろうし、いくつもの部隊を壊滅。そして仲間には癒しの魔法を使うことで、被害を最小限に押さえた。そのため二つ名を与えられることとなった。夜那の紫金は、感情の高ぶりから、瞳の色が紫から金へと変化することからついた名である。


 だが二人は強すぎたがゆえに、傭兵の契約が切れた後、仕事がこなかった。あったとしても王族や貴族のお抱え騎士。しがらみを嫌う兄妹は、フリーの冒険者としてチーム〝あかつき〟と名乗り、旅をするようになったのだ。


 夜那は淡々とした声で、イザナに告げる。


「夜斗は強いし、私自身も強いから大丈夫。必ず王都まで無事に送るから、安心して」

「はい」


 イザナはほっとしたように、顔を正面に戻した。夜那はイザナの横顔を見ながら、思案する。


(にしても、シャンデルト王国の王都クリスティルパラードへ急ぐとはいえ、ユーウェンから行くには、必ずこのクリスティナ街道を通る。最近は魔物も繁殖期で凶暴化してるし、盗賊のこともあった。なのになんで、商人ギルドの仲間と行ったり、もっと人数の多い冒険者チームに依頼をしなかったんだろ)


 物を売る商売を生業なりわいとするなら、商人ギルド。戦いを生業とするなら冒険者ギルドに所属する必要がある。それは世界共通の身分証のようなもので、兄妹は冒険者ギルドに所属している。

 さらに冒険者にはランクが存在し、下位からブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナ、ミスリルとなっている。夜斗と夜那はミスリルのランク持ちだ。


 夜那は上から下まで、イザナを探るように視線を動かす。


(イザナさんはどう見ても、ひ弱な体つき。よくあるパターンとして、実は盗賊と繋がってるということ。でもあの怯え具合からみると、その線はなさそう)


「あの? 夜那さん?」


 視線に気づいたイザナが、不思議そうに夜那を見つめる。


「別に。なんでもない」


 夜那はそう言って、中に戻った。

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