戦闘準備 1

 夜那は座ったまま、夜斗を見上げる。


「行くの?」

「先に片しておいたほうが、楽だろ。正直、守りながら戦うっているのは、面倒だからな」

「私も行く?」


 夜那は首をかしげて、問いかけた。だが、夜斗は「大丈夫だ」と言う。


「夜那は念のためここにいてくれ。それに、敵っていっても、そんなに多くないんだろ?」

「多分、噂の盗賊たちだと思う。小さな獲物には少数で動く奴らだから、多くても十人くらい」

「わかった」


 夜斗は夜那の頭を撫で、荷馬車の御者ぎょしゃをしている今回の依頼人、イザナに声をかけた。


「イザナさん、ちょっと止めてください」

「はい?」


 イザナは言われた通り、馬車を止めた。そして振り返り、夜斗を見上げる。イザナは小皺こじわが少し目立つ初老の男性で、どこか気の弱い雰囲気を漂わせている。


「どうかしましたか?」

「夜那がこの先に敵がいるようだと、小精霊から情報をもらいました。相手はおそらく、噂になっている盗賊でしょう」

「え!?」


 イザナの目が、驚愕で開かれる。だが、すぐに眉尻を下げた。


「し、しかし、道中はなにもなかったではありませんか。このまま、何事もないのでは?」


 夜斗は地面に降り、イザナを見上げながら、その考えを否定した。


「なにもなかったからこそです。もうすぐ王都に着くと油断したところで、襲うつもりなのでしょう。王都に近いとはいえ、騎士団が来るには遠すぎる。実にいい場所だ」

「あの、では、どうすれば?」


 イザナは不安気に、夜斗に問いかける。


「ここで待っていてください。俺が先行して、様子を見てきます。夜那を残していきますから、安心して」

「お一人で、大丈夫なんですか?」

「はい。このクリスティナ街道を餌場にしている盗賊たちは、護衛が少ない荷馬車や商隊を狙うようですが、調べた限り、十人程度でおこなっているそうです。ですので、俺一人で事足ります。それに、魔物が来ないとも限りませんしね」

「ま、魔物……」


 イザナの顔色が悪くなる。そんな彼に、夜斗は優しく笑いかけた。


「だから、夜那を残していくんです。大丈夫。夜那もとても強いですから。では、行ってきますね」


 夜斗は御者台まで出てきた夜那に、視線を向ける。

 視線を受けた夜那が、問題ないというようにうなずくと、夜斗は走り去った。


「本当に、夜斗さんだけで、大丈夫でしょうか? あ、お二人の強さを疑っているわけではないんです。まだお若いのに、旅をなさっているのですから、腕に自信があるのだということは、理解していますが……」


 イザナは不安と心配が入り交じった表情で、夜那に顔を向ける。


「大丈夫。相手はたかが十人程度の、弱者のみを狙う盗賊。にぃも私も、強き者の証として二つ名を持ってるから。そこらの雑魚に負けない」


 夜那は無表情ながらも、イザナを安心させるような言葉を述べる。

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