第137話 ΑΩとの邂逅




 カッコつけて「唯織先輩を守ります」と言ったら、他の女子達に不況を買ってしまった。


 僕と唯織先輩は慌てて離れる。

 その勢いで隠しエレベーターへと乗り込んだ。


 全員が乗ると、エレベーターの扉が締められ下の階へと降りていく。

 僅かな慣性力が身体へと伝わっている。


「……ったく。少年のハーレムには興味ないが日々過激になっていくな……そうだ、ほれ」


 竜史郎さんは呆れながら自分の懐から『黒の手帳』を取り出し、僕に渡してきた。


「竜史郎さん……これは?」


「前に話していた『手記』だ。俺が身に着けた傭兵としての知識と技術が全て書かれている。あれからすっかり渡しそびれたから、今渡しておく」


「は、はい、ありがとうございます!」


「……ちょい、リュウさん! そういうの死亡フラグって言うんだぞぉ!」


 彩花がツッコミを入れている。

 けど冗談じゃなく、本気で心配している様子だ。

 現に彼女だけじゃなく、有栖や香那恵さんなど女子達全員が頷いている。

 受け取った僕もそう思っているし。


「そう簡単に死なんよ。それに万一のため、少年の『抗体血清ワクチン』を所持している。噛まれても問題ないだろう。そもそも、この施設に人喰鬼オーガがいるかだけどな」


 薄く笑いながら胸元のポケットから、血清が入った採血スピッツを見せる。

 どうやら香那恵さんから一本譲ってもらっていたようだ。

 流石は師匠。常に慎重であり隙がない。


 そういや今まで僕の血液は、感染した男性に投与してないけど、果たしてどうなるんだろうな?

 有栖達のように強化されるのだろうか? 竜史郎さんが強化されたら無敵じゃね?


 などと考えていたら、あっという間に下の階へと辿り着いた。

 廻流の話だと『深淵アビス』と呼ばれる最地下に存在する研究施設ラボだとか。

 竜史郎さんの話だと「外部にウイルスが漏れないように設置された、生物学的危害バイオハザード用の実験室かもしれない」と話していた。


 エレベーターの扉が開かれる。


 すると、すぐ目の前で誰かが立っていた。


 とても小柄で美しい少女だ。

 透明色ともいえる長い白髪のツインテール。真っ白すぎる肌。華奢な身形からして、美玖と同じ12歳くらいに見える。

 中世的な深紅のゴスロリ風ドレスを纏い、西洋人形を思わせる可憐な美少女。


 だけど……この少女。何か異質だ。


 小さく整いすぎる鼻梁と血の気のない唇、そして大きな瞳は眼球が黒く染まっており瞳孔部分が煌々と紅く輝いている。


 特にあの瞳……まるで人喰鬼オーガじゃないか。


 ぼーっと少女の身形を眺める僕に反し、竜史郎さんはホルスターから自動拳銃FN・B・Hi-Pを抜き銃口を向ける。

 有栖達もいつの間にか武器を手にして身構えていた。


「――ようそこそ、深淵アビスへ。弥之お兄様に他の皆様」


 銃器を向けられているにもかかわらず、真っ白な美少女は「くすっ」と微笑を浮かべる


「誰だ、貴様ァ! 所属と名前を言え!」


「わたくし、白鬼のミクと申しますわ。以後お見知りおきを」


 恫喝する竜史郎さんの問いに、少女は答え丁寧にお辞儀をして見せる。


 この子が白鬼? こんな綺麗で可憐そうな少女が……人喰鬼オーガだと?

 それにミクって……妹と同じ名前じゃないか。

 いや、それよりもだ。


「どうして僕の名を? それにお兄様とはなんだ?」


「わたくしからは申してはならないと言われていますわ……ですがお会いしたかったです、麗しきお兄様」


 小さな手の平を合わせ感激する、自ら『白鬼』と称する少女、ミク。

 とても表情が豊かで、明らかに『青鬼』とはかけ離れた存在のようだ。


 敵意はないように見えるけど……。


 白鬼ミクは、短機関銃FN P90を構える妹の美玖と瞳を合わせる。


「貴女がわたくしと成り代わった偽物……」


「偽物? わたしが?」


「そうですわ! たかが『戦死乙女ヴァルキリア』になったからって、あまりいい気にならないことですわ! あと、そこの看護師も!」


 いきなりキレ出し、何故か香那恵さんにまで矛先を向ける。

 にしても重圧感プレッシャーというのか、凄まじい敵意と殺気だ。


 僕も流石に狙撃M24ライフルを構え警戒する。

 思考でなく、直観がそうさせた。


 白鬼ミクは僕の反応を見て「あら、嫌ですわ。ごめんなさい」と殺意を消失させ、頭を下げて見せる。


 なんだ、この人喰鬼オーガは。

 感情の起伏が激しすぎる。

 まるでヒステリックを起こした、元幼馴染の凛々子を彷彿させた。


「僕の妹を『戦死乙女ヴァルキリア』って言ったな!? どういう意味だ!?」


「いえ、なんでも……弥之お兄様、わたくしからは危害を与えないので、どうかお許しください」


 今にも泣きそうな顔で必死に許しを請う白鬼ミクの姿に、心なしか胸が絞られてしまう。


「そう、なら……いいけど」


「もう、センパイってばぁ! ガチでムッツリスケベェ!」


 狙撃M24ライフルを下す僕に、彩花は呆れた口調で怒っている。

 挙句の果てに竜史郎さんを含む他の女子達からも溜息を吐かれてしまう。


 だけど有栖だけは「ミユキくんは優しいから……」と唯一フォローしてくれた。

 まだ甘さが抜けてないだろうかと反省しつつ、彼女の気遣いが嬉しかったりする。


「ささ、弥之お兄様、こちらへどうぞ。皆様も是非にお越しくださいませ」


「俺達をどこへ案内するつもりだ?」


 銃口を向けたまま、竜史郎さんが問う。


「わたくし達の『神』がいらっしゃる所ですわ。あの方が貴方達にお会いしたいと意向なので。わたくしは案内人ですの」


「あの方……人喰鬼オーガの神だと? そいつは誰だ?」


「貴方もよく知るお方ですわ。本来、弥之お兄様以外の貴方達はイレギュラーな存在なのですが、あの方がお会いしたいと申されますので特別です」


「……そうか。了解した」


 竜史郎さんは納得した素振りを見せ、銃を下した。

 絶対に何かありそうだが、この場で立ち往生して問答を繰り返しても仕方ないと判断したようだ。


 こうして僕達は、白鬼ミクについて行くことにする。


 最地下に位置する『深淵アビス』と名称された研究施設。

 地上と変わらず真っ白な施設であり、まるで大きなシェルターのような造りであった。


 いや、寧ろこちらの方がより専門的であり近代的というべきだろうか。

 まるで屋上の研究施設は表向きであり、この地下施設を隠蔽するためのフェイクであるようだ。



 それからも白鬼ミクを先頭に、僕達は広く長い渡り廊下をひたすら歩かされている。

 少しずつ緊張感がほぐれてきたこともあり、竜史郎さんが口を開いてきた。


「一つ聞いていいかい、お嬢さん?」


「ミクで結構ですわ。なんでしょうか?」


「『白鬼ホワイト』ってのはなんだ? そいつはアンタだけなのか?」


「簡潔に申しますと、人喰鬼オーガ達を統べる女帝であり絶対者ですわ。無論、女帝はわたくし一人ですわ」


「女帝? つまり女王様ね……だとしたら『赤鬼レッド』とやらも、アンタの配下なのかい?」


「ええそうです。赤鬼レッドも、そこの『戦死乙女ヴァルキュリア』達と同じ位置に当たる存在ですわ」


「さっきも聞いたけど、その戦死乙女ヴァルキュリアって何なんだよ?」


 僕が聞いた途端、白鬼ミクは足を止めて振り返る。

 彼女の反応に、全員が咄嗟に武器に手を添えて警戒した。


 一方で白鬼ミクは、ぱっと明るく満面の笑顔を向けてくる。


「はぁい、弥之お兄様ぁ。『戦死乙女ヴァルキリア』とは『Øファイ』を守護する守護衛乙女達ガーディアンズのことですわぁ」


Øファイって僕のこと?」


「そうですわぁ。そして、わたくしは『ΑΩアルファ・オメガ』、わたくし達は表裏一体の関係ですのよぉ、愛しのお兄様ぁ」


 語尾にハートマークがつく感じで、白鬼ミクは声を弾ませ答えてくる。


 何故か僕は、この子に気に入られているようだ。

 そして「お兄様」とまで呼ばれている。

 さっき美玖のこと「成り代わった偽物」だと言ってきたことといい……。

 まるで自分こそが、僕の本当の妹だと主張しているように聞こえてしまう。


 人喰鬼オーガの女王が僕の妹?

 嘘だろ……。

 けど、人喰鬼オーガだって元は人間だったんだ。


 この白鬼ミクだって人間だった時期があったのかもしれない。

 もし彼女の言うことが正しいなら……。


 妹は……美玖はどういう存在だっていうんだ?

 





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