第133話 認められた成長




 ようやく西園寺邸から脱出した僕達。

 あれから丸一日が経過する。


 新しく手に入れた、NBC装甲車はとにかく凄い乗り物だった。

 どんな悪路でも簡単に乗り越え、放置された自動車が積み重なった車道でも、それらを強引に押し潰しながら突き進むことが可能だ。


 おまけに、このNBS装甲車は通常の仕様とは異なり、ガソリンだけでなく太陽電池ソーラーを電源として走れるという、ハイブリット使用として改装されていた。

 なんでも装甲板の至る箇所に最新型の特殊ソーラーパネルが設置されており、以前のように燃料が切れても問題なく走行することが可能である。

 但し電気モーターで走行できる距離は限られており、一日で約60~70㎞くらい走れば良い方だとか。また天候により左右されるらしい。


 さらに、これだけ大型かつ重装甲な車体だ。

 西園寺邸で大暴れしたこともあり、あっという間に燃料が底をついてしまう。

 おかげで次の目的地である『西園寺製薬研究所』までは、電力を蓄積させながらの移動が必要となった。

 まぁ、別に急いでいるわけじゃないからいいんだけどね。


「少年。あれから燃料も多少は補充できたが、今後のことも踏まえ節約することに越したことはないだろう」


 助手席に座る、竜史郎さんが声を掛けてくる。


「そうですね。放置されている一般の車は殆どガソリンを抜かれているようですし、自衛隊や警察の車が転がっているとは限らないんですから……」


 僕は運転席で慣れないハンドルを操作しながら同調する。

 そう今、僕が装甲車を運転しているのだ。師である竜史郎さんから「少年も運転くらいは覚えておけ」という指示があったからだ。

 当然ながら17歳の僕は、自動車の免許なんて持ってない。せいぜいゲーム程度の知識だ。

 ましてや、初めて操縦する乗り物が装甲車なんて普通ならあり得ない。


 でも今の時代、そんなこと言っている場合じゃないのも理解している。

 だから僕も積極的に運転を覚えて慣れるよう頑張っているわけだ。


 こうした前向な姿勢になったのも、自分が今の時代に沿った価値観にようやくついて来れるようになったからだと思っている。

 社会機能が失いつつある荒廃した世界で生き延びるためには、あらゆる技術を学び修得する必要があるからだ。


「……それにしても、竜史郎さん。三浦巡査、きちんと埋葬してあげて良かったですね」


「ああ、できれば林田と一緒にと思ったが、流石に『安郷苑』まで戻る余裕は俺達にはない。しかし、あのまま放置しておくよりはマシだろう」


 竜史郎の言葉に、僕は頷いた。



 今から遡ること20時間前だ――。


 例の自衛隊人喰鬼オーガが立ち往生しているバリケードにて。

 

「――人喰鬼オーガがいません」


 この時、僕は助手席側に乗っており双眼鏡を覗いていた。

 前方を確認して、運転手の竜史郎さんに報告する。

 破損したバリケードに装甲車はあるも、待機している人喰鬼オーガ達の姿は見られなかった。

 その代わり、有栖と唯織先輩が斃した連中は道路に転がっている。

 おそらく虫や鴉に遺体が食われ、白骨化しているかもしれない。


 見たところ、一ヶ月前に僕達が切り抜けたままの状態だと思った。


「あの『赤鬼レッド』が待機していた青鬼ブルー達を撤収させたかもしれんな……きっと目的を果たしたので、用済みとなったのだろう」


 目的か。確か竜史郎さんの情報だと、『白鬼』とかの指示で『赤鬼』達はシェルターに隠れていた、「西園寺 勝彌かつみ」の息のかかった上級国民達を抹殺したんだよな。

 なんでも『白鬼』よりも上である『人喰鬼オーガの神』とやらがいて、そいつ命令で奴らは忠実に動いていたとか。


 ってことは、やっぱり人喰鬼オーガという存在は、『西園寺 勝彌』と何かしら関与している可能性があるというわけで……。


 僕の身体に何かした疑惑のあるアラサー男こと、謎めいた養子の『廻流かいる』といい。


 今まで散りばめられていた伏線が、徐々に一つの線に纏まろうとしている。

 そう思う都度に、より残酷な真実が待っているような気がしてならない。


 僕が一番、懸念しているのは唯織先輩のことだ。

 聡明な彼女のことだから、何か察している部分はあるかもしれないけど、まだそこまでの事実は知らない筈である。

 以前、相談した竜史郎には、僕の方から口止めしてもらっているままだ。

 けど、これから向かう『西園寺製薬の研究所』に行けば、嫌でも現実を知ることになるかもしれない。


 いや必ず知ることになるだろうなぁ。

 そうなったら間違いなく、唯織先輩は酷くショックを受けてしまう。

 だとしたら、今から彼女に教えておいた方が良いのだろうか。


 などと考えているうちに、バリケード付近でNBC装甲車は停止した。


 竜史郎さんは運転席から降りて、M16自動小銃アサルトライフルを構えながら周囲を確認している。

 僕も続く形で降りて、狙撃M24ライフルを掲げて後を追う。


「……生存者はいない。嬢さんと唯織に斃された青鬼ブルーは放置されたままだ。それに三浦巡査もな」


「あっ、ああ……」


 僕は言葉を失う。

 検問を通るため、安郷苑から僕達を案内してくれた女性警察官だ。

 自衛隊員の人喰鬼オーガ達だと知らずに近づいたばかりに凶弾を浴びてしまった。

 彼女もまた、あの時と同じ形で無惨な状態のまま倒れている。

 いや、あれから一ヶ月以上……きっと遺体の腐敗が相当進んでいるに違いない。


「俺は装甲車に戻り、香那恵を呼んで道具とシートを持ってくる。少年は待機していろ、そこから動くなよ」


「は、はぁ……竜史郎さん、何をするつもりです?」


「放置された装甲車から燃料を抜き取る。そして、倒れている青鬼オーガ達が身につけている自動小銃ライフルや装備類を頂くつもりだ。前にせっかく仕入れた銃器類も全て西園寺邸に置いて行ってしまったからな。きっと装甲車の中にも、幾つか使えるモノがある筈だ」


 相変わらず入念な人だ。そこが痺れて憧れているんだけどね。


「シートは?」


「三浦巡査に覆い被せる。その辺になってしまうが、せめて香那恵と二人で埋葬くらいしてやるつもりだ。彼女には世話になったからな」


「……だったら僕も手伝いますよ」


「大丈夫か? 無理しない方がいい」


「いえ、もう見慣れましたから……それに、ほんの少しの間ですが行動を共にした女性ひとですし」


「……そうか。少年もすっかり男になったな」


「え?」


「いや、なんでもない。初めて出会った時より、大分成長したなと思っただけだ」


「は、はい」


 なんか褒められたっぽくて照れてしまう。

 特に竜史郎さんからだと余計にだ。

 認めらえたようで誇り高い気持ちになれる。

 

 それから、僕と竜史郎さんと香那恵さんの三人で、三浦巡査の埋葬をした。

 なんだかんだと有栖達も降りてきて、全員で彼女の冥福を祈る。


 僕は竜史郎さんから燃料の抜き方を教わり、自衛隊員の人喰鬼が装備していた「戦闘靴」と「弾納ベスト」を譲り受けた。


 また放置された装甲車には、武器類の他に戦闘糧食レーションと飲料、雨具や寝袋に至るまで詰め込まれていた。

 よくわからないけど、行軍訓練でもしない限り、通常は装甲車に置かれていない品々だと思う。


 竜史郎さん曰く「長期間の検問という任務で配備されたモノか、あるいは個人の意志で基地から脱出しようとした際に人喰鬼オーガに感染したんじゃないか」と憶測が立てられる。

 実際は不明だけど、仮に自衛隊員が任務を放棄してまで逃げ出す事態となっているのなら、游殻市に安息地は望めないと意味している。


 いや、きっと日本、また世界中がそういう状況なのだろう――




 そして現在。

 辺りは暗くなり、燃料と電力の節約のため、装甲車内で食事をして就寝することになった。


 後部座席は広々としており、僕達が囲んでくつろぎ、横になるくらいのスペースは確保できる。

 夕食を済ませた後、竜史郎さんからある提案をしてきた。


「明日には『西園寺製薬の研究所』に着くことだろう。その前に、今この場でみんなが仕入れた情報を整理してみないか?」

 





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