第131話 表裏一体のΑΩとØ




 ~笠間 潤輝side



 ――姫宮 有栖が生きている!


 あの裏切り者の糞女が!?


 その事実にボクは驚愕する。

 まるで全身に雷を浴びたかのような衝撃を受けた。


「何故だ!? 何故、あの女がイオネェと二人でいる!? いや、それよりも、どうして生きているんだよぉ!? あいつ、ボクが囮にして人喰鬼オーガに襲わせた筈……まるで感染してないじゃないか!?」


 どういう事かさっぱりわからない。

 ボクの知らない所で、一体何が起こっていたんだ!?


 その信じられない光景を他所に、装甲車は猛スピードで駆け抜けて夜陰の中へと紛れて行く。

 当然ながら有栖と唯織が、ボクの存在に気付くことはなかった。



「どうやら行ったみたいね。万全じゃないこの身体で、あの装甲車を相手にするには分が悪すぎるわ……盾にする、翔太もいないことだし」


 覆い被さっていた穂花は冷静に呟き、ボクから離れる。


「潤輝、立てる?」


「あ、ああ、すまない……キミが庇ってくれるなんて意外だよ」


 穂花はボクの腕を引っ張り立ち上がらせてくれた。

 特にデレるどころかツンすら見せず、汚物を見るような目で「ふん!」と鼻を鳴らす。


「勘違いしないことね。あんたが死んだら、この世で『赤鬼レッド』はわたしだけになるわ……そうなったら『白鬼様マスター』から、他の『赤鬼レッド』を増やすように命じられるのは、わたしってことになるでしょ? そんな雑用は潤輝が一人でやれって道理よ」


「キミに利用価値があると思われるだけでも本望さ」


「口説き上手ね……バカな女なら簡単に引っ掛かるかも。でもそんなお調子者だと、たとえ上手く口説けても途中で失敗するタイプね。生前でも妊娠させたり、あるいは寝取られるってところかしら?」


 この女、清純そうな顔して酷い物の言いようだ。


 しかし、ぐぅの音も出ねぇ……。


 実際にその通りだからな。


 有栖は最終的にボクよりも『夜崎 弥之』を選んだんだ……。


 この学年カースト一位だったボクじゃなく、よりによってクラスで底辺だった陰キャぼっち野郎を選ぶなんて……クソォッ!


 しかし有栖の奴。


 どういう経緯で、西園寺邸にいたんだ?

 唯織とも仲良さそうに見えた。


 美ヶ月学園じゃ、せいぜい会っても挨拶を交わす程度だったのに。

 

 それに穂花が言っていた、二丁拳銃を持つ女って。


 ――有栖のことか?


 だとしたら、狙撃される前にボクが見た宙を舞う女も……姫宮 有栖。


 馬鹿な!


 確かに有栖は新体操部のエース。

 高い身体能力はあるかもしれないが、あんな人間離れした飛躍力があるわけがない。


「……潤輝、あんた最初の『赤鬼レッド』として『白鬼様マスター』か『カイル様』からワクチンの存在を聞いている?」


 何を思ったのか、穂花は唐突に尋ねてくる。


「ワクチン? なんだい、そりゃ?」


「そう、あんたも知らないのね……翔太を斃した日本刀を持った看護師の女が所持していたのよ。人喰鬼オーガウイルス、いえ『ΑΩアルファオメガウイルス』を無効化する『抗体ワクチン』をね」


「ガチか!?」


 あんのかそんなもん!

 だとしたら、ボクらの存在もやべーじゃん!


 穂花は頷き話を進める。


「その看護師の女も翔太に噛まれ、一時期『黄鬼イエロー』になったけど、その抗体ワクチンを飲んだ途端、すぐ人間に戻ったのよ……しかも『赤鬼レッド』と同等の身体能力を身につけた上でね」


「『赤鬼レッド』と同等の身体能力だって……それで翔太くんが斃された?」


「そっ、今思うとあの子も……『彩花』も同じね。きっと副作用か何かで強化されたんだわ」


 彩花? 誰のことだ?


 いや、それよりも……。


 抗体ワクチンがこの世に存在していることが重要だ。

 しかも摂取した奴の身体能力を強化させるなんて……。


 待てよ?


 だとしたら、有栖が無事でいるのも納得できる!

 異常なまでの身体能力を見せていたのも頷ける!


 そして、唯織と一緒にいる理由もだ!


 つまり、こうだ。


 『偽物の廻流かいる』は『ΑΩアルファオメガ-ウイルス』だけじゃなく、既に抗体ワクチンを完成させていたんだ。


 それで事実上の『神』になろうと目論んでいる。


 ボク達、人喰鬼オーガはその礎ってことだ。


 案外、廻流かいる自身も既に抗体ワクチンを接種しているかもしれない。

 そして有栖達と同様に強化された身体……。


 だから、あんなに余裕ぶっていられるのか?


〔――それは違いますわ、潤輝さん。廻流様こそ『真の神』ですの。全てを超越せし偉大な存在と言えましょう〕


 頭に響く『白鬼』の声。


 ミクの思念――。


 やばい!


 ボクは速攻でその場で跪いた。

 穂花も続いて同じ行動を取る。


〔……翔太さんの件は残念でしたわ。貴重な『赤鬼レッド』を失ってしまって〕


「申し訳ございません、白鬼様マスター


 穂花が誰もいない場所に向けて深々と頭を下げている。

 ある意味、もっとも『赤鬼』らしい忠実な女だ。


〔穂花さん、貴女の責任ではありませんわ〕


「ボクの責任でもないよね、ミクちゃん? ボクも頭に銃撃を受けて、このザマだし……」


〔勿論です、潤輝さん。でも貴方のその傷は、自身のおごりと慢心があったからこそ。油断したからに過ぎませんわ。あんた高々とした塀で突っ立っていたら、「どうぞ撃ってください」っと言っているようなものじゃないですか? 違います?〕


「はい、その通りです。申し訳ございません」


〔まぁ、しかしですわ。半壊にせよ脳が損傷したにもかかわらず、そこまで治癒できたのは流石の『悪運』ですね。どう治癒させたかは存じませんが……〕


 存じない? 知らないってのか?


 ボクがどうやって傷を治癒させたのかわからないってのか?


 いつでも監視下に置き、ボクの思考に強制的に割り込んで来た『白鬼ミク』が……?


 つまり脳が半壊して治癒するまでの間が空白だった!?


 そうか……そういうことか。


 ――見つけたぞ!

 

 唯一の抜け道!


 後はどうやるかの方法だ……それは、今は考えない方がいい。

 あまり強く念じると読み取られてしまうからな。


 ククククク……。


〔翔太さんを失った件は、わたくしのミスと言っても過言ではないでしょう。貴方達にも話していないことが、まだ沢山ありますからね〕


「――抗体ワクチンの件ですか?」


 穂花が率直に聞いている。

 ボクだったら間違いなく怒られる内容だが、ミクは忠実な穂花を買っている部分があった。

 ある意味、信頼されている彼女じゃないと聞けない内容である。


〔……そうですね。まだ実験段階ですが『Øファイ-ワクチン』の血清を持つ者が存在しております。それが穂花さん達に以前お話した『救世主メシア』という存在ですわ。その者だけは貴重なサンプルとして生かす必要がありますの〕


 メシア、救世主だって!?


「じゃあ、ミクちゃん! その救世主がいれば、『Øファイ-ワクチン』がいくらでも増やすことができるってことかい!?」


〔いえ、潤輝さん。『Øファイ-ワクチン』はあくまで『救世主メシア』の体内から直接採取して摂取しなければ効果が発揮されることはありません。増殖も培養も不可能ですわ。まぁ、血液を抜き取り保管して携行することは可能ですが〕


「では、あの看護師の女は『救世者メシア』なる者から血液を採取して所持していたってことですね?」


〔そうなりますわ……しかし、予想より『戦死乙女ヴァルキリア』が増えたのは意外でしたが〕


「「ヴァルキリア?」」


 ボクと穂花は声を揃えて首を捻る。


〔特定の条件で発現する『救世主メシア』を守護するための守護衛兵ガーディアンですわ。貴方達、『赤鬼レッド』の人間版と例えてもいいでしょう〕


 人間版の『赤鬼』だと!?


 あの有栖もか……。


 じゃあ、有栖を助けたのは、その『救世主』ってわけだな!

 

 しかも、『戦死乙女ヴァルキリア』ってのは一人や二人じゃない。


 翔太を斃した看護師の女、穂花を追い詰めた奴。

 きっとあの異常にすばしっこいツインテールのガキもそうに違いない。

 そして、唯織……あの女も普通じゃなかった。


 少なくても五人に守られているってのか、その『救世主』という奴は……。


 なるほど、そういうことか。


 ミクが『赤鬼』を増やしたがるわけだ。


 ウイルスとワクチン……そのバランスを保持したいのだろう。


 表裏一体の存在としてな。


 それこそが、廻流かいるの創造する『新世界』ってやつらしい。


 はっ。


 ――悪趣味なことだ。






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