第九章 神ト救世主

第130話 再会する彼女




 ~笠間 潤輝side



 少しだけ遡った西園寺邸の正門前付近にて。


 ボクは謎の狙撃手スナイパーに頭部を撃ち抜かれ回復に専念している。


 脳が半壊するも、幸いなんとか一命を取り留めることができた。

 もう少し下、脳の中心に食らっていたら完全に終わっていただろう。


 これも『悪運』スキルを持つ、ボクだから助かったこと。


「クソォッ、イラっとするわ~!」


 ボクは立ち上がり、塀の壁に背を当て圧し掛る。


 『青鬼』のペットである父さんに命令し、既に始末した使用人の遺体を持って来させた。

 それを食らうことで大体の損傷部を治癒することができたのだ。


 しかし、まだ完全ではない。


 特に複雑である脳の回復には時間が掛るようだ。

 まだ思うように力が入らない。


 他の『青鬼』達はボクの監視下から外れてしまい、今頃は通常通りに『生きる屍』として目の前の人間を襲っていることだろう。


 統率力はなくなってしまったが、人間達が敷地内で籠城している限り、『青鬼』達は連中の肉と血目当てで襲って行くに違いない。

 数的にも、まだこちら側が圧倒している筈だ。


 だが、クソォッ!


 せっかくイオネェこと西園寺 唯織を見つけたってのに、奴に邪魔されちまった。


「ボクを撃った狙撃手スパイパーめ! 絶対に許さないぞ! 殺してやるゥ! 絶対に殺してやるゥゥゥ!!!」


 それに、やたらすばしっこいツインテールのガキ。

 あいつも目障りだった。


 使用人達が弾切れを起こさず、強襲に持ち堪えられたのも、あの少女ガキが弾丸を渡して回っていたからだ。


 そして、あの二丁拳銃を持って宙を舞っていた女――。


 あんなごっつい拳銃を片手ずつ持ち、変幻自在の体勢から射撃し、精密に頭部へと当てていた。

 まるで新体操選手のような身軽さ。


 いや、あんな動き人間ができるレベルじゃない。

 もしできる奴がいるとしたら、ボクが知る限り奴らくだいだろう。


 ――穂花と翔太。


 ボクと同じ『赤鬼』のカップル。


 特に穂花はかなりヤバイからな……。


 そういや、連中はちゃんとシェルターを攻略して屋敷内部を潜入しただろうか?

 だとしたら、ボクの頭を撃ったムカつく狙撃手スパイパーを殺してくれているかもな。


「――相変わらず楽観的かつ他人任せね。自分の尻拭いくらい自分でやりなさいよ」


 穂花だ。


 いつの間にか、ボクの隣に立っている。

 血塗れのようだが鮮血を浴びただけではない。

 治りかけだが両腕に相当のダメージを負っている。


 しかし、この女め。


 何故。『白鬼』でもないのに、どうしてボクの思考が読めるんだ?


「口に出さなくても、あんたの考えくらいわかるわ。顔に出ているもの」


「そ、そう……しかし穂花さん、キミも随分とボロボロだね? どうして戻ってきたんだ? 翔太くんは?」


「翔太は死んだわ。人間に首を刎ねられてね……一応、シェルター内は『青鬼ブルー』達で占拠しているわよ。命令通り、『上級国民』と称する全ての『避難民』達を完全にキルしたわ。けど、屋敷への破壊には至らなかった……理由はわたしのダメージを見ればわかるでしょ?」


 戦えなくなり、シェルターに『青鬼』達を残したまま、自分だけ逃げてきたってわけか?


「ミクちゃんには報告したのかい?」


「したわ。そうしたら、あんたと合流して、ここから離れなさいって。もう屋敷も放置していいって仰っていたわ」


「そうなんだ……へ~え」


 白鬼ミク、いや偽物の『廻流かいる』の意図が読めてきたぞ。


 ――最初っから『上級国民』の抹殺だけが目的だったわけだ。


 他はついでで良かったらしい。


 ん? 待てよ?


 だったら、ボクは使用人達を引き付ける『囮役』って感じゃないか!?


 こっちは頭を撃たれ、死にかけて大変だったのにぃ!


 クソォッ! あの人間がァァァッ!

 ミクがいなけりゃ、とっくの前にぶっ殺して食ってやるってのによぉ!


「――それより潤輝、あんたも相当手痛い目に遭ったようね?」


 いつの間にか、ボクを呼び捨てに呼ぶ穂花。

 まぁ、ボクの方が年下だし親近感もあって悪い気はしないからいいだろう。


狙撃手スパイーに頭を撃たれたんだ。幸い脳も半壊で済んだから回復するに至ったってわけさ」


「そっ、『白鬼様マスター』が仰った通り、『悪運』だけはあるのね……翔太には、その運がなかったんでしょう」


「運も実力のうちってね……翔太くんの件は残念だったね」


「そぉ? まぁ、利用できるビジネスパートナーがいなくなったのは残念ね。他を探すわ」


 ビジネスパートナーだって? 彼氏じゃなかったのかよ?


 あれ?……もしかして、いい感じじゃね?


 ――これって、ボクの思い通りの構図になったってことじゃね?


 女子だけの『赤鬼』、ボクのハーレム!

 まさに棚から牡丹餅っとはこの事じゃん!


 うほっ、ラッキー!


 そんなハッピーなボクに穂花はジト目で凝視してくる。


「また顔に出ている……言っとくけど、わたしを自由に出来る方は『白鬼ホワイトミク様』とゴットである『カイル様』だけよ! あんたはあくまでビジネス、いや利用価値はそれ以下ね!」


 嘗て学年カースト一位のボクに対して散々な言われようだな。


 だがしかし、世の中には「ツン」と「デレ」がある。

 さらに「好き避け」って言葉もな――。


 有能な男の『赤鬼』がボクだけなら、いずれ気がつけば好きになってくれるかもしれない。

 ご都合主義のラブコメ展開のようにね。

 だったらここは童貞主人公か鈍感系空回り主人公を装い、多少悪く言われても受け身で我慢しようじゃないか。


「今はそれでいいさ……ミクちゃんの許可が出ているなら、『青鬼』が健在なうちにとっとと、ここから離れよう」


 ボクはそう言った矢先。



 ギィィイィィィッ――ドガガァアァッ!!!


 ――ぎぃぃやあああぁぁぁ!!!



 激しい急ブレーキに何かが衝突する音。


 さらに人喰鬼オーガ達の断末魔の叫び。


「な、なんだ!?」


「敷地内ね……おっきい自動車、戦車……いえ、装甲車ね。あえて『青鬼ブルー』達を轢き殺して走行しているわ」


 自由に動けないボクの代わりに、穂花が正門から顔を覗かせて確認する。


「装甲車!? なんでそんな物が私有地ここにあるんだよ!?」


「……知らないわよ。でも、ここ屋敷は普通じゃないのは実際に入ってわかったわ。あのシェルターといい……元々、こういうのを見越して予め準備していたかもね」


「見越してか……あり得るな。だから医療業界をいいように牛耳り、色々な病院や製薬会社を運営していた……来るべき日のためにってか?」


 きっと『偽物の廻流かいる』は、義理の父親である『勝彌かつみ』の計画を乗っ取って、今の終末世界に転換させたんだ。


 ――新世界の神になるために。


 ここ『遊殻市』が日本で最も感染率が高いところを見ると、手始めにこの都市から創世を目論んでいる。

 あるいは都市ごと、なんらかの実験台にしているのかもしれない。


 粗方あの上級国民達は、廻流にとって不要な人間であり、人喰鬼オーガ襲わせて『間引き』されたってことだろう。


 クソォッ、あの人間カイルがぁ!

 どこまでも、ボクを利用しやがって……。


 それからも、『青鬼』達の悲鳴と絶叫は鳴り止まない。

 挙句の果てには、重機関銃の音さえ鳴り響いていた。

 

 こっそり眺めている穂花の話だと、装甲車が旋回し人喰鬼オーガを轢き殺しながら、搭載されている機関銃を乱射しているらしい。


 車体の上には二人の女がいて、眼鏡をかけた女子高生っぽい奴が発狂して笑いながら重機関銃を発砲しているようだ。


「もう一人の女も大したモノよ……あれだけ装甲車が動き回っているのに、あの位置から正確に『青鬼ブルー』達の頭部だけを撃ち抜いている。シェルターで遭遇しなくて良かったわ……しかも二人の瞳の色は……まさか『彩花』と『あの女』と同じ?」


 穂花さんよぉ、んなのどうでもいいじゃん。

 これだから戦闘狂は……。


 作戦も終わったなら、とっととここから離れるべきじゃね?


 そう思い、ボクが声を掛けようとした時だ――。


「こっちに向かってくるわ――潤輝、身を隠しなさい!」


 穂花がボクに抱き着き、地面へと押し倒す。

 むにゅっする柔らかい感触に包まれた。


 うほっ! 超ラッキー!


 っと、素敵な感触を楽しんでいたのも束の間。


 装甲車が正門を突破し、物凄い勢いで走り去って行った。


 あれは確か自衛隊の『NBC偵察車』じゃないか!?

 一体どうやって手に入れたんだ!?


 いや、驚くのはそこじゃない……。


 装甲車の車体上で重機関銃がある上部ハッチの部分に、二人の女が重なり合う形で乗っていた。


 一人は幼馴染のイオネェこと、『西園寺 唯織』だ。


 しかし、もう一人の女は……。


「――有栖ッ!?」


 そう、ボクの元カノだった女子。


 ボクを裏切った女、『姫宮 有栖』だ。

 





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