第129話 脱出、西園寺邸




 僕達は恐る恐ると、壁にめり込んでいる『NBC偵察車』に近づく。


「竜史郎さん……それが『例のモノ』ですか?」


「そうだ! 見ての通りの装甲車だ! なんで、こんなモノが個人宅にあるかわからんがな!」


廻流かいる坊ちゃまが、旦那様におねだりし自衛隊から裏ルートで仕入れ、ずっと倉庫で保管していた代物でございます。なんでも、とある研究目的で放射線物質やウイルスで汚染された地域へ行かれる際に使用するかもしれないと話されておりました」


 何、その冗談みたいな理由。

 そんなの自家用車を購入するノリで、個人的で所有していい物じゃないよね?

 第一通常は入手不可能な車両なのに、まともに公道を走れるわけねーじゃん。


 裏ルートで購入する父親も父親だと思う。


 濱木さんからの丁寧な説明に、竜史郎さんは顔を歪ませる。


「廻流って奴も問題だが、どこまでも法を無視する西園寺財閥が異常なのだろう……ムカつくったらありゃしない」


「私もこんなモノが保管されているとは思いませんでした……なんか我が家が色々とすみません」


 愚痴る竜史郎さんに、娘である唯織先輩が深々と頭を下げて見せる。


「……いやイオリが謝る必要はない。俺も人喰鬼オーガ達を轢き殺しながら、遠慮なく屋敷の壁をぶち壊してしまったからな。だがおかげで、少しスッキリしたぞ」


 どちらにせよ、ここが実家である唯織先輩にぶっちゃけていい話じゃないと思う。


 だけど竜史郎さんの言葉通り、外で彷徨っていた人喰鬼オーガ達の大半が斃され凄惨な状態となっている。


 おそらく、ぶっとい車輪や強固な装甲によるものだろうか。

 頭部と身体が砕かれ、四肢が轢き裂かれている。


 さっきの悲鳴や衝突音は、人喰鬼オーガ達を轢き殺した際のモノに違いない。

 現にそれらの血飛沫や臓物などが、装甲車の車輪とフロントにこびりついている。


 どうやら、これが「オペレーションB」らしいな。


 竜史郎さんが『NBC偵察車』を用いて、敷地内にいる人喰鬼オーガ達を一網打尽にするという作戦のようだ。


 壁を壊し、そのまま僕達を回収して西園寺邸から脱出する計画なのだろう。


 作戦実行前、濱木さんが示した覚悟もこの辺にあったのか。

 竜史郎さんも気持ち良く派手にぶっ壊したからな……。

 

 けど、そのおかげで人喰鬼オーガも相当な数を減らすことができたのも事実だ。


 しかし、それでもまだ300体はいると思われた。


「唯織お嬢様に夜崎様達、急いで装甲車にお乗りくださいませ!」


 濱木さんが言ってきた。


「しかし、濱木よ! まだ、あれほど人喰鬼オーガがいるではないか!? お前達だけ残して行けというのか!?」


「その通りでございます、お嬢様。あれだけの数をここまで減らして頂いただけで充分です。後は我々使用人達にお任せください」


 唯織先輩の問いかけに、濱木さんは平静にお辞儀して見せる。


「しかし濱木さん、シェルターにも30体の人喰鬼オーガが侵入しています。きっと『赤鬼』の指示で今頃は避難民達を襲っているかもしれません。下手したら数を増やされ、外側と内側から挟み撃ちに遭う可能性も……」


「カナネェさんの言う通り……『赤鬼』、一匹逃がしちゃったからね~」


 香那恵さんと彩花も地下シェルター内の状況を説明する。

 どうやら僕達を裏切り手引きしたとされる、残り『上級国民』こと避難民達を捕食しているらしい。


 しかし、濱木さんを含む使用人達と、藤村さんの若いメイド達は首を横に振った。


「――されどです。これは、私達の務めであり義務です。外界ではどうあれ、私達は旦那様に大変な恩義がございます。それに久遠様達を信頼し、唯織お嬢様をお預けいたすのです。そのお方こそ、西園寺家の最後の希望と言って良いでしょう」


「どうかご安心ください! わたくし達も戦います! 自分達の居場所は自分達で守りますから!」


 藤村さんとメイドさん達は不慣れながら、各々で銃を手に取っている。


「……皆、すまない」


 唯織先輩は瞳に涙を浮かべ、使用人達に頭を下げて見せる。

 僕達も彼女に習う形で感謝の意を示した。


「安心しろ。俺達もただで逃げたりしないさ。外の連中をもう半分以上は轢き殺してやる」


「私も銃で応戦します! この装甲車、頑丈で平べったいから天井に昇っても大丈夫そうですし!」


 竜史郎さんと有栖が威勢よく言う。

 少しでも敵の数を減らせば、使用人達の生存率が上がるからな。


「僕もギリギリまで狙撃しますよ!」


 ならばと、僕も便乗して言ってみる。

 濱木さんと使用人達から「皆様、ありがとうございます」と感謝の言葉が聞かれた。


「あの車体に搭載されている機関銃は撃てる状態なのか?」


 唯織先輩が濱木さんに聞いている。


 ブローニングM2重機関銃のことだろう。

 12.7mm、大人の掌よりもデカい銃弾だ。


 いくらなんでも、あんなの飾りだろうと思った。


「はい、お嬢様。整備だけは怠りませんでしたので、車内から遠隔操作でも撃つこが可能です。銃弾も裏ルートで仕入れております」


 できるのかよ! しかも遠隔操作って凄くね!?

 一体何目的で配備されているんだ!?

 

「いや、私は直接撃ちたいんだ。最後の手向けとしてな……あの銃口の迫力といい、なかなか痺れそうじゃないか?」


 唯織先輩はキラッと眼鏡のレンズを光らせる。

 凛とした美人顔で言っているけど、絶対にトリガーハッピー症状で言っているんだろうと思った。

 てか、自宅に実弾が配備された装甲車があることに、そろそろ誰かツッコんだ方が良くないか?


「よし、乗ってくれ! 派手に逃げてやるぞ!」


 竜史郎さんの号令で、僕達は頷き『NBC偵察車』の後ろから鉄の扉リアゲートを開けて乗り込んだ。

 

 入口は狭いが車内は意外と広いようだ。

 ベッドのような長椅子が左右の端に並んでいる。


 濱木さんの説明で改造が施されており通常の『NBC偵察車』と内装や装備が異なっているそうだ。

 そう言われても、通常がよくわからないけどね。


 さらに奥側の方に扉があり、そこからマニピュレーターや精密機器を動かす操作席と機関銃を撃つ昇降口ハッチへと続いており、竜史郎さんがいる運転席キャビンへと続いているらしい。


 僕は竜史郎さんの指示で、運転席まで行き助手席に乗り、有栖と唯織先輩は中央部の機械室で待機した。

 彩花と香那恵さんと美玖は後部室で身体を休めている。


「全員乗り込んだな――行くぞ!」


 竜史郎さんは勇ましく言い、『NBC偵察車』を発進させた。


 最高速度95kmを誇り、多少の悪路などものともしない装甲車。


 対テロリストとの銃撃戦も想定されているだけあり、その強固な車体から繰り出される突撃は走る『重装甲の砲弾』と言っても決して比喩ではないだろう。


 竜史郎さんはあえて旋回しながら、より多くの人喰鬼オーガ達に突進して容赦なく轢いて行く。


 血飛沫を上げながら身体が吹き飛ばされる者、八つの太い車輪に踏みつけられる者、フロントの装甲に頭部を砕かれ絶命する者など様々だ。


 人喰鬼オーガ達にとって、それはまさに惨劇だろう。


 僕は助手席で手すりにしがみつき、遠心力に耐えながら、ひたすらその光景を見せられている。


 同時に、これじゃ狙撃出来ないと判断した。


 これだったら、彩花達と一緒に後部室で休んでいれば良かったよ。


 どうして竜史郎さんは、僕を助手席に招いたのだろう?

 まさか「ハーレム展開発生予防」って言うんじゃないだろうな?

 


 ドォン! ドォン! ドォン――!


 車体上から単発の発砲音が聞こえる。


 有栖が車体屋根ルーフの上で拳銃を発砲しているようだ。

 

 離れた距離にいる人喰鬼オーガ達の頭部を正確に撃ち抜いていた。

 流石と言うところだけど、猛スピードで旋回している状況だ。

 万一、有栖が誤って落ちてしまわないか、不安と心配も過る。



 ――バッバッバッバッバッバッバッバッ!!!



 車体に轟かせるほどの重い発砲音。

 間違いなく、ブローニングM2重機関銃だ。


「凄いぞ! 凄いじゃないか!? これまでにないハイパワー! 痺れるゥゥゥッ!  痺れるぞォォォッ! そして食らうがいい、人喰鬼オーガ共よぉ! 我が家を荒した罪は重いぞぉ!! ハーッハハハハハ!!!」


 トリガーハッピーとなり高笑する、唯織先輩。

 これまでにない程に絶叫し、さらに発狂しているようだ。


 いつも武士の情けで見て見ぬ振りをしていたけど、そろそろ誰か彼女を止めた方がいいんじゃないだろうか?


 それにしても、12.7mm弾の威力は想像以上に凄まじいぞ。


 あっという間に、人喰鬼オーガ達の身体が蜂の巣となり肉片と血飛沫が飛散している。

 簡単に手足を吹き飛ばし、頭部など風船の如く破裂されていった。


 もう完全なオーバーキルじゃないか。


 こうして、敷地内にいる人喰鬼オーガ達を大量に蹂躙していく。

 

 残り僅かとなり、銃を持った使用人達なら十分戦える範囲だろう。


「――よし、これだけ暴れれば十分だな! このまま突っ切って屋敷から抜け出すぞ!」


 竜史郎さんはハンドルを巧みに操作し出口へと走らせる。


 僕達を乗せた装甲車は、そのまま西園寺邸の門を突き抜け脱出した。






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