第128話 例のモノの正体




 あれから、かなりの数の人喰鬼オーガを撃ち斃していると思う。


 にもかかわらず、未だ多勢の『青鬼』が屋敷に向かって襲い掛っている。

 まったく、どれだけの数がいるのだろう。


 これじゃキリがない――!


 そう愚痴を零さずにはいられなかった。


 しかし、不思議なところもあった。


 先程まで、連携を図れ隊列を組んでいた『青鬼』が普段と変わらない動きに戻っている。

 酔っ払いのように千鳥足で、のろのろと歩く感じだ。


 そして、互いの身体がぶつからないよう、一定の空間を開けていた。

 中には地面に転がる人喰鬼オーガの残骸を避けようとし、躓き転倒している奴らもいる。


 ――僕が『笠間 潤輝』と思われる人喰鬼オーガを撃ち落としてからだ。


 やはり、あいつが『青鬼』達に指示を与えて動かしていたのだろうか。


 おかげで人喰鬼オーガ達への狙撃も容易となり、屋敷への侵入だけは阻止することができている。


 使用人達の被害も減り、何とか互角以上に渡り合える状態となっていた。



「藤村君、どうした?」


 ふと背後から、執事長の濱木さんの声が聞こえる。


 僕が振り向くと、シェルターに避難していた筈のメイドこと藤村 恋さんと他の若いメイドさん達が屋敷内に入って来る。


「そ、それが……大変なことが起こりまして……」


「大変なこと?」


 濱木さんが聞き返し、藤村さんが説明している。


 僕は光学照準器スコープ越し、近づいてくる人喰鬼オーガに狙撃しているので、何を話しているのかわからない。


 濱木さんが僕に近づき「夜崎様にも聞いて頂きたいのですが……」と言って、僕と狙撃ポジションを交代した。



 メイドの藤村さんから話を聞いてみる。


 どうやら竜史郎さんの指示で、彼女達は屋敷に上がってきたようだ。


 にしても……。


「飯田さんを含む避難民達が人喰鬼オーガと手を組んで、屋敷中の施錠ロックを開錠したって言うんですか!? 何故、そんなこと……しかも喋って知性がある『赤鬼』って……マジかよ」


「私も断片的でしか聞いておりませんが、現にシェルター内に奴ら・ ・は侵入してきました。それでお二人が率先して、わたくし達をここまで逃がしてくれたのです」


 お二人とは、彩花に香那恵さんのことだ。


 確かに戦えないメイドさん達と一緒なら思う通りに戦えないだろう。

 それなら自分達が防壁となり、彼女達を逃がすこと選択したに違いない。


 彩花も香那恵さんも強いし、近距離戦闘を得意とする二人だ。

 いくら広めのシェルターとはいえ、銃撃戦よりもシャベルや刀の方がいいのかもしれない。


 けど、二体の『赤鬼』って存在が気になる……。


 裏切った飯田さん達も逆に『赤鬼』とやらに裏切られ、人喰鬼オーガに捕食されてしまったらしい。


 複雑な心境に浸っている中、僕が所持するトランシーバーから連絡が入る。


『少年、無事か?』


 竜史郎さんからだ。


「はい、無事です! 今、藤村さんから話を聞きまして……シェルターのこと、『赤鬼』っていう人喰鬼オーガのことなど……」


『ああ、そうか。今は時間がない。それは後で考えよう。それより「例のモノ」を入手したぞ。今からそちらに行くから、嬢さん達に屋敷内へ戻るよう伝えてくれ!』


「はい! でも彩花に香那恵さんが……」


『二人なら無事だ。今そっちに向かっているだろう。合流してリビングの壁際で待機していろ! 内側だぞ、くれぐれも外側の壁には立つなよ! 濱木にもそう伝えろ!』


「わかりました!」


 良かった、二人とも無事のようだ。


 だけど、竜史郎さん。

 どうして外側の壁にいたら駄目なんだよ?


 僕はいいやと割り切り、トランシーバーで有栖達を呼び寄せる。


 濱木さんにも内容を伝えた。

 

「許可したとはいえ、本当にやられるのですね……久遠様は。いいでしょう! 使用人達に知らせましょう!」


 まるで覚悟を決めたかのように、濱木さんは自分が所持するトランシーバーで各使用人達に無線を入れる。


「これより、オペレーションBに移行します! 外にいる者達は早急に、屋敷前から離れてください! 繰り返し――」


 業務連絡みたいなノリだな。

 ちなみに、オペレーションBって何?


「ミユキく~ん!」


 有栖が戻って来た。

 彼女の後ろに、美玖と唯織先輩が走ってくる。

 みんな無事で何よりだ。

 

「有栖みんなも、竜史郎さんの指示通り、内側の壁に待機しよう!」


「うん、わかったよ! 彩花ちゃんと香那恵さんは!?」


「無事だよ、今来ると思う!」


 簡潔に会話を交わし、僕達は内側の壁に密集し並んで背をつける。


「あれれ~、センパイ達なにしてんのぅ? 新しい遊びぃ~?」


 彩花が呑気な声で扉越しで小顔を覗かせてやって来た。

 その背後に、香那恵さんも続いている。


「こんな非常時にんなワケないだろ!? 竜史郎さんから聞いてないのか?」


「リュウさんには、ここへ来るようにしか言われてないよぉ。でも空気読めたわ~、よいしょっと」


 彩花は言いながら、割り込むように何故か僕の右側の隣に入ってきた。

 

 そこには唯織先輩が立っており、「おい、彩花、コラッ!」と怒っている。

 香那恵さんは彼女の肩にそっと手を振れる。


「……唯織ちゃん、今だけ彩花ちゃんのわがまま許してあげてね」


「え? はぁ、香那恵さんがそう仰るのであれば……う~ん」


 唯織先輩は不満そうな顔で受け入れている。


「あんがとイオパイセン。えへへ~、センパイの隣ゲット~」


「別に僕はいいけど……どうした彩花? なんか目の周り赤くないか?」


「え? ふふふ……やっぱ、センパイは優しいね~、甘えさせてーっ」


 彩花は笑顔を見せ、僕の腕に抱き着き身体をいつも異常にすり寄らせる。


 身体の温もりと細身で華奢スレンダーながら柔らかい胸の感触がもろに腕に伝わっているじゃないか。


 思いっ切り恥ずかしい……けど、今は何も言わず受け入れた方がいいと思える。


 彩花は決して表情には出さないけど、何か辛い目に遭ってきたようだからな。


 左側の隣に立つ有栖もそう悟ったのか。普段ならツッコミの一つもあるが何も言ってこない。

 その代わり、さりげなく僕の左手を握ってくる。

 こちらもきめ細かく柔らかくて素敵じゃありませんか。


 やばい、ドキドキするんですけど……。


 ひょっとして両手に花とはこのことか?


「……お兄ぃ、非常時なのにハーレム満喫だね。竜史郎さんも『少年達は時と場所を選ばない所がある』って言ってたよ」


「うっさい! しょ、しょーがないだろ!」


 ジト目で睨んでくる妹の美玖に、僕は開き直るも弁明の余地はないと思った。


 不本意のようで実際は超嬉しい。

 けど今はそんな場合じゃないし、緊張持てよって話だし……。


 駄目だ、頭の中がくらくらしてきた。


 陰キャぼっちの僕には、あまりにも刺激が強すぎる。


 などと、やっていると。



 ギィィイィィィッ――ドガガァアァッ!!!


 ――ぎぃぃやあああぁぁぁ!!!



 自動車が急ブレーキを踏む音と、何かを轢き悲鳴を上げる声が外から響いた。

 人というより、動物を撥ね飛ばした感じに似ている。


 さらに。



 ドゴォォォォン!



 屋敷の壁に巨大な何かが衝突し、リビングの壁が損壊した。


「うわぁぁぁぁ! なんだぁ!?」


 僕は驚愕し声を荒げてしまう。


 破損した壁に埋まる形で、一台の自動車が停止している。


 いや、自動車と呼ぶには、あまりにも大型で頑丈そうな装甲と車体。

 車輪も4軸8輪と通常の倍の個数だ。


 一瞬、戦車かと思ったが明らかに異なる車両。

 

 ――NBC偵察車。


 大型装甲車両で陸上自衛隊が所有する、NBC(核・生物・化学)兵器対処用の装輪装甲車である。

 車体中央上部左側にはブローニングM2重機関銃が搭載されている。


「な、なんで、あんなモノが!?」


 僕達が驚いていると鉄板装甲の窓が開き、誰かが顔を出してきた。


「少年、皆も今のうちに乗れ!」


 竜史郎さんだった。


 内容は詳しく聞かされてなかったけど、このNBC偵察車が『例のモノ』だったのか!?






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