第126話 歪んだ姉妹対決




 ~篠生 彩花side



 少しだけ遡り。


 あたしはお姉ちゃんこと、『赤鬼』となった穂花と打ち合っている。


 冒頭で彼女が言ったように、あたしは中学まで剣道をやっていた。

 強く凛々しい、お姉ちゃんに憧れつつ、いつか追いつきたいと思いながら。

 幼少から日々、お姉ちゃんの後ろ姿を追いかけ過ごしていたようなものだ。


 けど何をしても穂花には追いつけない。

 追い越すことは永遠にあり得ないと悟った。


 妹なんだから、それも有りだなと過らせつつ、あたしは追いかけるのを諦めた。


 高校に入り、剣道部に入らず不登校になったのもそう。


 親や周囲から穂花と比較されるのがウザかったのかもしれない。


 けど立場こそ違うけど、お姉ちゃんも似たような思いを抱いていたようだ。


 妹のあたしには負けられないという意地と、姉として優等生としての矜持プライド


 人間だった頃は決して表に出すことはなかったけど、人喰鬼オーガとなり『赤鬼』として知性を得たことで、それが露骨に出てしまったのだと思えた。

 

 きっと翔太さんも同じ……。


 違うかもしれないけど、そう思いたい。


 でなければ、あたしの大切な思い出が全て嘘になってしまう。


 ――だから、この手でとっとと終わらせたい。


 これ以上、醜い二人を見たくない。


 綺麗なまま大切な存在として終止符を打ちたい。


 その一心で、あたしは凶器として磨き上げた相棒のシャベルを振り回した。


 リュウさんが予め教えてくれたおかげで始末する決心と覚悟も出来ている。

 確かにムカついて気持ちが高揚しているけど思いの外、冷静に戦えていた。


 けど、流石はお姉ちゃんだ。


 身体能力が強化した状態のあたしと互角、いや以上の実力を見せている。


 伊達に全国大会で優勝した剣豪ではない。

 翔太さんも剣道部の主将として強かったけど、穂花は別格だった。


 ――天才。


 その言葉に尽きる。



 ガキィィィン!



 シャベルと刀のような『骨刃ブレード』が激しくぶつかり合う。

 

 パワーはあたしの方が上だけど、武器の形状もありスピードと正確さは向こうの方が上に思えた。


 しかも両腕に刃が生えた、二刀流……いつの間に、そんな技術を身に付けたのだろうか?


 あたしはシャベルを大きく振り回し、穂花と距離を開けた。


 向こうも、あたしの一撃を恐れて迂闊に踏み込もうとしない。

 剣技に精通する者ならではの、ちょっとした駆け引きが生まれている。


「……よそ見する間を与えてあげる。あんたの仲間を見てみなさい」


 穂花に言われ、あたしは横の方をチラ見する。


「――カ、カナネェさん!?」


 視界には香那恵こと、カナネェさんが背後から翔太に抱きつかれ、首元を噛まれていた。

 そのままカナネェさんは両膝を崩し倒れている。


「くっ!」


 あたしは、カナネェさんを助けるため、身を乗り出そうと姿勢を変えた。


 瞬間、鳩尾に重く鈍い激痛が走る。


 穂花が接近し、あたしの腹部目掛けて蹴り上げたのだ


「ぐはっ!」


 あたしは嗚咽し後退する。

 シャベルを床に突き立て倒れまいと持ち堪えた。


「行かせるわけないでしょ? 翔太の実力じゃ、今のあんたには勝てないんだから」


「……彼氏だから?」


「バカなの? 何度も言っているじゃない、だだのビジネスパートナーだって。あんなんでも居ないと困るのよ。鬱陶しい奴からの虫除け役としてね」


 鬱陶しい奴?

 他にも『赤鬼』がいるって言うの?


「あたしバカだよ……学校行ってないし、不登校だったからね~」


「嘘ね。彩花、あんたはそう言いながらも地頭は凄くいいわ。そして才能もあり周囲を明るく引き付ける魅力もある……現に高校で、その髪になってからだって同級生から上級生の男達に声を掛けられていたじゃない」


「きっとお姉ちゃん目当てだよ。あたしじゃない」


「そうかしら? 翔太だってそうでしょ? 昔っから、あんた自分のことを過小評価しすぎるのよ。まぁ、そう仕向けたのは、わたしかもしれないけどね」


「お姉ちゃんが?」


「自覚しているでしょ? 潜在的に彩花はわたしには勝てないって。昔からそう植え付けてやったのよ。舐められないためにね」


「舐めるって……姉妹でしょ?」


「だからよ……姉が妹に敗けるなんて屈辱考えたことがある? わたしはいつもプレッシャーだったわ……パパやママ、周囲の連中も彩花なら何やろうと許されて、わたしは許されない。常に上を目指さなければならない優等生としてね!」


「……でも、あたしすぐ不登校になったしぃ。その時点で、あんたの不戦勝でしょ?」


「わかってないわ……それでも皆、あんたに一目置いているのよ。パパもママも翔太も学校の連中、誰もかも! これがどういう意味かわかる!? あんたがその気になれば、わたしなんていつでも超えられるって意味よ! それだけは認めないぃ! 認めたくないぃぃぃい!! 敗けてたまるかぁぁああぁぁあぁ!!!」


 次第に穂花の感情が乱れていく。


 進化し知性が宿したといっても、所詮は人喰鬼オーガ

 肉体と同様に感情を抑制する制御リミッターも外れてしまっているのだろうか。


「……お姉ちゃん」


 あたしは、次第に壊れている穂花が不憫に思えてきた。


 蹴られた痛みも回復している。


 殺るなら今だ――。


「……だから嬉しかったわ」


「え?」


 不意の穂花の言葉に、あたしは動きを止める。


「嬉しかったのよ。彩花から翔太を奪えて……好きだったんでしょ、あいつのこと?」


「な、何を……」


「知っているのよ。初恋だって……だから奪ってやったのよ! 姉である、このわたしがね! 翔太もそう言ってたでしょ?」


「だから何よ! もう関係ないし!」


 あたしは踏み込み、シャベルを振り降ろす。

 しかし、あっさりと穂花に見極められ躱される。


「そんなヤケを起こした大振り、当たるわけないでしょ?」


「うっさい!」


「気分良かったわ……あんたの目の前で翔太とイチャつくの。妬くに妬けなく落ち込んでいく、あんたの表情……不登校になったのも半分はそれもあるんでしょ? だから、あの時『好きなように生きなさい』って言ったのよ。勝手に自滅して落ちぶれてしまいなさいって」


「嘘だ!」


「嘘じゃないわ。目的のない不登校なんて既に将来見えているじゃない? まさか、本気でパパの大工を継ごうとしたの!? 今時じゃ大工だって高度な知識や資格が求められる世界よ! 社会舐めんなよ、アハハハハハ!!!」


「クソォッ!」


 あたしはショベルを振り回すも、彩花には当たらない。

 余裕で躱しきり、挑発して嘲笑う。


「そのショベル、パパのモノよね? それで感染したパパとママを殴り殺したの? エグ~」


「あんた達のせいでしょ! もう喋んな!」


「けど、そこよ。わたしがあんたを恐れているの……そのいざって時の冷静な爆発力。だから一番に潰したかった。彩花が小学生の低学年の頃、まだ剣道をやり始めた頃よ、覚えている?」


「な、何?」


「彩花、あんた一度だけ剣道の試合でわたしに勝っているの……正確には一本だけ取られたってところよ」


「それがどうしたの……どうせ素人だからって手を抜いたんでしょ?」


「そんなわけないじゃない。寧ろ逆よ、ぶちのめしてやろうと本気で挑んだ中での一本よ……しかも、わたしの面を受け流された上でのカウンター……知っているでしょ? わたしは小学から剣道の道場でも『神童』って呼ばれていたのよ。屈辱と同時に、あんたの潜在能力を畏怖したわ」


「だから何よ!」


「わたしは誰にも負けたことはない。絶対に負けるわけにはいかない……けど、最も身近に一番の脅威が存在すのよ。けど姉である以上、あんたを見放すことはできない……だったら、勝手に不貞腐れて自滅してもらうしかないじゃない?」


「二度と喋んなって言ってんのよ!」


 あたしは踏み込み、シャベルを仰け反る形で大きく振り翳す。


 わざと隙を作った――。


 攻撃された瞬間を狙って、そのイカレた頭を潰してやろうと。

 相打ち、あるいは玉砕の覚悟だ。


 そんなに気に入らないなら殺されてあげる。


 但し穂花、あんたも道連れだよ!


 それが妹として最後にしてやれる、せめてのケジメってやつだから!


 ふと走馬灯の如く、人達の姿が思い浮かぶ。


 リュウさん、カナネェさん、ヒメ先輩、イオパイセン、みくっち。


 ……ごめんね、みんな。


 色々と楽しかったよ。



 そして、弥之センパイ。



 最後まで好きだって言えなかったけど――



 大好き、愛してるよ。






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