第124話 曝け出す本性




 ~久遠 香那恵side



 兄さんから連絡を終え、私と彩花ちゃんはメイドの子達と部屋からでることにした。


 シェルターの15階を見張っている執事達にも声を掛け、屋敷に向かって弥之くん達との合流を考える。


 他の階にも上級国民と称する者達が各部屋で待機している筈だが、兄さんからは「どうせ結託した裏切り者の仲間達だ! 放っておけ!」と指示を受け言う通りにした。


 事は緊急を要するし、その余裕もないからね。


 ――案の定、予感が的中した。



「うわぁ! 何なんだ、こいつらは!?」


「ひぃぃいっ! こっちに来るなぁ!」


「つ、強い! ぎゃああぁぁあぁ――!!!」


 銃声音と共に、執事達の悲鳴が木霊する。


 先にメイド達を屋敷へと上がる階段まで誘導し、私と彩花ちゃんだけ15階へと戻った。


 広々とした廊下が血の海と化している。


 斃された執事達の残骸と思われる亡骸の上に、血塗れの男女が立っている。


 血飛沫を沢山浴びたと思ったけど、それだけじゃない。

 顔や腕足といった全身の皮膚が真っ赤であり、所々に黒々とした動脈が浮き出されている。

 真っ黒な眼球に赤い眼光は紛れもなく人喰鬼オーガだ。


 しかも、『赤鬼』!?


「兄さんが言っていた、『赤鬼レッド』ね!?」


 私は『村正』の柄を握りしめ身構える。

 いつでも抜くことができる居合術の構え。


「あの看護師の女、刀を持っているぞ……あの構え、居合道か?」


 『赤鬼』の男が喋った。

 本当に言語が話せるみたい。

 表情や仕草も人間と変わらない……信じられないわ。


 あっ、でも、よく見たら短髪で爽やかなイケメン風ね。


 まぁ、私は断然、弥之くん推しだけどね。

 

「フン、どうでもいいわ! 『青鬼ブルー』に下の階に行かせて正解だったわ。今頃、目的通りシェルター内で隠れている人間達を襲っているでしょうね。飯田という人間達と同じ末路を辿るのよ!」


 長い黒髪の『赤鬼』の少女も、鼻を鳴らしながら滑舌よく喋っている。

 知性があるからか、人喰鬼オーガとは思えないスタイル良く綺麗な容姿。

 雰囲気的には有栖ちゃんに似ているかもしれない。


 でも顔立ちは……彩花ちゃんかしら?

 それに『赤鬼』達が着ているのは、彼女と同じ『聖林工業高校』の制服だ。


「感染を無視しての捕食……完全抹殺か。まぁ、上級国民とか、ふざけたことを抜かす連中には相応しい末路だな」


「けど、こいつらも銃を持っているのに、このザマとは……まだ自衛隊の方が歯ごたえもあったかしら?」


 黒髪少女の『赤鬼』が、床に散らばっている使用人達の残骸を物足りなさそうに一瞥する。


「案外、外で戦っている連中の方が強敵かもしれないぞ。潤輝くんに任せるんじゃなかった……」


「でも、さっきから、あいつと思念のやり取りができないわ……まさか殺られた?」


「いや、『白鬼様マスター』から狙撃者に頭部を撃たれて回復に専念しているそうだ。辛うじて『青鬼ブルー』に指示は送れるらしい」


「ドジね。悪運の強さだけは認めるけど……」


「運も実力のうち。そこも評価されてのリーダーだ」


「相変わらず呑気な男。貴方、彼から心の奥で疎まれているの知らないの?」


 何、この子達?

 世間話しているわ……。


 まるで私達を歯牙にもかけず無視シカトしているみたい。

 いえ、きっとそうなのだろう。


 得体の知れない存在か……兄さんの言う通りだ。



「……お姉ちゃん、翔太さん」


 私の隣で彩花ちゃんはそう呟いた。


 お姉ちゃんですって?

 あの黒髪の『赤鬼』が?


 彩花ちゃんに呼ばれ、女の『赤鬼』がこちらに視線を向ける。


「――ん? 彩花、あんたこんな所に居たんだ? その様子だと無事だったようね?」


 特に感情を見せることなく無表情で言ってきた。


 あまりにも飄々とした態度に、私も彩花ちゃんも拍子抜けしてしまう。


「う、うん……いや、あんた……お姉ちゃんで間違いないよね? 篠生 穂花」


「そう、お姉ちゃんよ。しばらく会わないうちに忘れちゃったの?」


 穂花という『赤鬼』は執事達の亡骸を踏みつけ、両手を広げて前へと出て来る。

 

 彩花ちゃんは片手で腰のホルスターから、回転式拳銃ニューナンブM60を抜き銃口を向けた。


「来ないで! お淑やかだった、あたしのお姉ちゃんと口調が違う! 何よ、イメチェン!?」


「似たようなモノかしら? 『赤鬼レッド』に進化したのが影響でしょうね。人間を1000人も食らえば、生前のようなお淑やかな優等生キャラじゃ無理があるでしょ?」


 進化? 人間を1000人も捕食した?

 つまり、『赤鬼』は『青鬼』の進化系ってわけなの?


 その穂花の隣に、男の『赤鬼』が並んだ。

 名前は、翔太って呼ばれていたわね。


「やぁ、彩花ちゃん、久しぶりだね。キミのお姉ちゃんは元々こういう女だよ。上っ面だけの自意識過剰ってやつさ」


「翔太さん?」


「随分なモノの言い草ね……あんただって、彩花にワンチャン狙っていたんでしょ?」


「ワンチャンじゃない。俺は彩花ちゃんと本当はガチで付き合いたかったんだ。その為に姉であるお前に近づいた……なのに、お前が嫉妬して俺を誘惑してきたんだろ? おかげで、お姉ちゃん思いの彩花ちゃんは遠慮して、俺と距離を置くようになってしまったんだ」


「あんたが紛らわしいことするからよ! わたしと付き合っていることが周囲に認知されている状態で、あんたと彩花が付き合うことになったら、わたしが妹に彼氏を寝取られる形になるじゃない! そんなの真っ平ごめんだわ! わたしは彩花の姉よ! 常にあの子より上に立たなければいけないんだからね!」


「ほら見ろ、自己顕示欲の塊。それが穂花の正体さ……まぁ、俺も『黄鬼イエロー』の頃に衝動的に穂花とキミのお母さんと噛んでしまったのは悪かったけどね。本当は、あの日……『黄鬼イエロー』に感染していく中、彩花ちゃんを真っ先に食べたいと思って、篠生家に行ったんだ。けど生憎留守だったけどね」


「酷い男……だから、わたしも『黄鬼イエロー』から『青鬼ブルー』となった後もずっとあんたと一緒に行動していたのね。きっと、あんたの思い通りに彩花を奪わせないように……」


「妹思いの姉だって言いたいのか?」


「違うわ――ましてや、あんたとの恋愛でもない! わたしの矜持プライドがそれを許さなかったのよ! どんな形だろうと、あんた達が一緒になることがね!」


「お姉ちゃん……」


 第三者の私には、彼女達が何を話しているのかわからない。


 ただ、この穂花ってお姉ちゃんは恐ろしいくらい嫉妬深く裏表がはっきりしていたようね。


 彩花ちゃんもギャルっぽいのに実は純情っていう、可愛らしい裏表があるけど、同じ姉妹なのにまるで質が異なるわ。


 きっと優秀すぎるが故に周りの期待と圧力で、そのように捻じ曲がってしまったんでしょうね。

 それが人喰鬼オーガとなり、より浮彫となったんだわ。


 対する翔太って彼氏は駄目駄目の軟弱なクズね。

 結局、上辺だけで特に恋愛面での意志が弱く、はっきりしない優柔不断な男。


 その弱さが穂花をより歪ませ、彩花ちゃんの家を不幸のどん底に叩きつけたんだわ。


 弥之くんもちょっぴり優柔不断なところもあるけど、彼は女の子を不幸にさせることはない。

 誰かのために優しく一生懸命になれる優しい男の子。


 だから兄さんも彼のことを気に入り、私も心が惹かれてしまっている。


 年甲斐もなくね……。


「……じゃあ、何? あんたら付き合ってたんじゃないの? 周囲が羨むカップルじゃなかったの?」


 彩花ちゃんは回転式拳銃ニューナンブM60をホルスターに収める。

 愛用のシャベルを両手で握り締め掲げた。

 攻撃的な口調に本来の戦闘スタイルを取っている。


「付き合っていたわ。何だかんだ身近でわたしと釣り合う男は、翔太だけだったからね」


「穂花の内面はこうだが見た目は抜群だったからね。後は彩花ちゃん、キミと会って近づくのも目的だったけど……さっき言った通りってやつさ」


「……笑えねぇっつーの。そこまでブチまけ合っているんじゃ、お互い一緒にいる意味ないじゃん? 何、『赤鬼』とやらに進化してもツルんでいるワケ? キモダサいんっすけど~?」


「気が合うからよ。けど恋愛じゃない、あくまで戦闘面においてね。唯一、そこだけは翔太を信頼しているわ。例えるなら、生きるためのビジネスパートナー、またウィンウィンの関係ってやつよ。そこだけだけどね」


「俺も穂花の実力は認めている。生前から最も敵に回したくない女として本能からそう思っている。妹のキミならわかるだろ?」


 穂花と翔太より、互いの情や未練は一切ない、相互利益のための関係だと主張している。



 ギリッ!



 シャベルのグリップが強く握りしめる音。


「うっさい! うっさい!! うっさぁぁぁい!!! お前ら、もう喋るな! そんなんなら、まだ知性のない『青鬼』の方がマシだったよ! どっちにしてもブッ殺すには変わりないんだからね! 二人とも頭カチ割ってやるから覚悟しろってのッ!!!」


 彩花ちゃんの瞳孔を赤く染め怒声を浴びせる。

 戦闘モードに突入した。






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『二度目から本気出すトラウマ劣等生の成り上がり~過去に戻され変えていくうちに未来で勇者に媚ってた筈の美少女達が何故か俺に懐いてきました~』

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