第123話 人喰鬼の神




~久遠 竜史郎side



「あ、秋元さん!?」


「そんなぁ、話が違うじゃないか!?」


 秋元親子が殺され、上級国民達は騒然となる。


 ちなみに斬殺された代議士の『秋元 照広』の生首は、身を隠している俺の方に飛んできた。

 自分が何をされたのかわかっていない唖然とした表情で何気に合う。


 俺にとっては仇の一人だ。

 ざまぁとしか言いようがない。

 

 できれば俺の手で始末してやりたかったがな……仕方ないだろう。


 上級国民達が『赤鬼レッド』の二体を批判するも、奴らはニヤッと不気味に口角を吊り上げた。


「約束? 潤輝が口八丁で約束したことじゃない? わたし達には関係ないわ」


「それに『白鬼様』からは屋敷内の人間は『救世主』を覗いて全て皆殺しするよう指示を受けている」


 白鬼?


 救世主だと?


 あの『赤鬼レッド』男の口振り……白鬼という存在に対して敬服の意志が込められている。

 人喰鬼オーガの間にも、ボス格がいるってのか?

 

 救世主は人間と言っていたな?

 一体、誰のことを示している?


「ふ、ふざけるでない! ワシらには手を出さない、シェルターを開放すると約束したから、ワシらは信頼して協力してやったのじゃぞ!? トイレットペーパーを自由に使うためにな!」


 飯田 充蔵という上級国民達の爺さんにとっての価値基準はトイレットペーパーであるらしい。


「信頼か……生きている人間よりも人喰鬼オーガを信頼する貴様らの頭がイカレているんだよ!」


「わたし達人喰鬼オーガのやることは、ただ一つ。人間を殺し食らうことよ!」


「ぎゃあ――!」


 女の『赤鬼レッド』は言うと、その腕に仕込まれた鋭利な『白刃』で飯田の首を刎ね飛ばした。


 飯田の首は何故か俺が隠れている近くまで飛び、秋元の首と並ぶ。


「飯田さん!? うっ、うわぁぁぁぁぁ! 助けてくれぇぇぇぇ!!!」


 他の上級国民達が悲鳴を上げ、一斉に逃げて出して行く。


「人間を逃がすわけがないだろ。いいぞ『青鬼』共、感染しようと無視して殺すまで食らってやれ!」


 男『赤鬼レッド』の指示で、30体の『青鬼ブルー』達は雄叫びを発して、上級国民達を襲った。

 ろくな武器を持たず、密閉された空間では逃げ場はないようだ。


「ひぃぃい! 助けてくれ! 私は遊殻市の市長だぞ! みんなに認められ、市長に当選したんだぁぁぁぁ! 何かある度に庶民にダメ押しされ胃の痛い思いをして、ここまで頑張ってきたんだぁぁぁ!! だから私は何も悪くなぁぁあぁあぁぁぁい!!!」


 市長の蟹江だけは腰を抜かしてしまったようで、その場から動けないでいる。

 発狂したかのように途中意味不明なことを叫んでいた。


 二人の『赤鬼レッド』が、蟹江の前で見下す形で立っている。


「言っている意味がわからないな。あのお方・ ・から、あんたも『西園寺 勝彌かつみから慰労金だが支援金だかの名目で薄い汚い金を貰って私腹を肥やし甘い汁を啜っていただろ?』って仰っている」


「うっ!? どうして貴様らがそのことを!?」


「こうも仰っているわ、『これは粛清の一環』だって。『西園寺家の寄生した腐敗分子を全て一掃し根絶やしにする』って……これから創世する『新世界』のために、貴方達は不要な害虫だそうよ」


「こ、この市長の私が寄生虫だと? 誰が……誰がそんなことを言っているんだ!?」


「「――我ら人喰鬼オーガゴット」」


 男女の『赤鬼レッド』が口を揃えて答えた瞬間、蟹江の首が宙を舞っていた。

 腕の骨のようにも見える『白刃』で斬首したのだ。


 にしても二体とも相当な腕前、まるで香那恵の『居合術』を彷彿させる。


 蟹江の首は、何故か俺が身を隠している近くまで転がり、秋元と飯田の頭部と並んだ。

 凄惨な光景だが、なんとも言えないシュールなコンボだと思えた。

 実は俺が隠れているのがバレているんじゃないか?


 それから二体の『赤鬼レッド』の指示で、『青鬼ブルー』達は、他の上級国民達を襲っている。

 普段以上に獰猛な獣の如く、相手が絶命するまで噛みつき、肉や四肢を引き千切り臓物を食らっていた。


 戦場で見慣れた俺でさえ口を覆い吐き気を催すほどの残酷な地獄絵図と言える。


 だが幸か不幸か。


 それらの行為のおかげで、俺の存在がバレずに済んでいるようだ。

 上級国民達の肉片の残骸と血の海が、より存在を消すカモフラージュになっているのだろう。

 人喰鬼オーガ達も食事に夢中のようだし、ここはせいぜい利用させてもらうぜ。



 俺はそこから離れ、目的の倉庫へと向かう。


 ふと思考が過る。


 あの『赤鬼レッド』達が口を揃えて言った単語についてだ。



 ――我ら人喰鬼オーガゴット



 ゴット……。


 『白鬼ホワイト』とは異なる存在のように聞こえた。


 まるで黒幕的なポジ……。


 その『ゴット』とやらも俺と似たような目的を持っているような気がする。


 ――西園寺 勝彌の復讐。


 さらに『新世界』を創生するとか?


 革命思想か、あるいは厨二病とやらなのか……。


 どちらにせよ。


「何かが……断片的な何かが一つに纏まりつつある。俺の常識範囲外でな……おそらく、少年の身体と何か関係があるのか?」


 だとしたら『神』とは――奴のことか?


 ……いや、まだ早い。


 まだ全てのピースが揃っていない状況で、断定するのは。


 きっと全ての答えが『西園寺製薬の研究所』にあるに違いない。


 少年の……夜崎 弥之の身体を変えたとされる、『あの男』が握っているような気がしてならない。


 だがそれよりも、今やらなければならないことに集中するぜ。


「まず『例のモノ』を入手する。それと香那恵達に知らせねば――」


 俺は静かに倉庫へと続く扉を開ける。


 屋敷で濱木から貰った携帯無線機トランシーバーを取り出した。







~久遠 香那恵side



 ここは地下シェルターの15階の一室。


 私と彩花ちゃんは、『藤村 恋』さんを含む戦えない他の若いメイドの子達と待機していた。

 若い執事達は先輩執事から散弾銃を受け取り、15階を中心に見張り番を行っている。

 

 本当なら私と彩花ちゃんが適任なのだろうけど、執事達から「いえ女性に、ましてや唯織お嬢様のお客様にそのような真似はさせれません」と拒まれたわ。

 

 私と兄さんにとっては『敵地』とはいえ、本当に紳士的で良い人が多いわ。

 きっと唯織ちゃんの性格も、父親よりも彼らと接することで構成されたのでしょうね。



『――香那恵、すぐ出ろ』


 っと考えているうちに、兄さんから無線が入ったわ。


「どうしたの兄さん?」


『シェルターに30体以上の人喰鬼オーガ達が向かおうとしている。手を組んだ、避難民達の裏切りでな。門を開け、シェルターのエレベーターを使えるようにしたのも連中だ。しかし逆に人喰鬼オーガの裏切りに遭い、捕食されているがな』


 避難民達? 自称、上級国民だっけ?

 その人達が人喰鬼オーガだ? 裏切る?


 嫌だわ……何を言っているのかしら?


「……兄さん、何を言ってわからないわ。そもそも人喰鬼オーガと人間が手を組める筈ないじゃない」


「リュウさん、そういうジョークはウケないっつーの! キャハハハ~」


『詳しく説明している暇はない! 使用人達を連れて急いで、屋敷に上がれ! 少年と合流し防衛ラインを張るんだ! 俺が行くまで持ち堪えろ! 嬢さん達も呼べ! でないと、奴らには勝てない!』


「……奴らってだ~れ? 相手は人喰鬼オーガでしょ?」


『見たことのない「新種」がいる……「赤鬼レッド」と呼べる人喰鬼オーガだ。しかも二体もな。そいつは人間と変わらない知能を持ち言語も話せる。それと腕から骨のような「白い刃」を出す能力を持つ』


「「赤鬼レッド!?」」


 私と彩花ちゃんは声を揃えて驚愕する。


『それとシノブ……よく聞け。そいつらは男女二人、お前と同じ制服を着ている』


「……え? マジ?」


 彩花ちゃんの口調と表情が一変する。


『ああ……おそらく、お前が探している人喰鬼オーガだと思う。俺は単独で戦うことを薦めない。あの二体は明らかに普通じゃないからな……得体の知れなさを感じる』


「だったら兄さん……何も今、教えなくても……」


『香那恵。どの道一戦交えることになる。後で知って動揺するよりも、戦う前の心構えが必要なんだ。その方が冷静クールな判断もできるだろう』


「リュウさんの言うとおりだよ……カナネェさん」


「彩花ちゃん?」


「あんがと、リュウさん教えてくれて――あたし、戦うよ。たとえどのような存在だろうと、そう決めてここにいるわけだからね」


「でも、『青鬼』もいるんでしょ!? 一人じゃ駄目よ! 駄目なんから!」


 私が心配するのを他所に、彩花ちゃんは「ネェさん、ウケる~!」と甲高い声で笑い出す。

 なんか小馬鹿にされているみたいでカチンとしてしまう。


「玉砕覚悟の特攻なんてするわけないじゃん! あたしはみんなと戦うの! ここから脱出するためにね!」


 彩花ちゃんは言いながら愛用のシャベルを強く握りしめて立ち上がった。






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